宝島社より 「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」 が発売になりました。私にとっては初の商業出版になります。
自分の小説が本屋に並ぶという中学生からの夢がようやく実現します! 興味がある方は書店で予約してみてくださいませ。

MENU

Windows PCの逆襲

ここ数年PCの売上は全世界で伸びていない。2016年の年間出荷台数は前年より-6%の見通しである。

itpro.nikkeibp.co.jp

PC出荷は法人向けと個人向けに分けられるが、近年は両市場で課題を抱えている。

ボールペンとなったPC

http://www.sozai-library.com/wp-content/uploads/2014/07/2550-450x337.jpg

法人向けPCは”文房具”と化している。多くの企業はPCにこれ以上の大幅な進化を求めておらず、安くて丈夫な製品があればよいと考えている。ボールペンに進化を求めている人は少ないだろうし、新商品がでたから部内のボールペンをすべて買い換える企業は皆無だろう。PCはボールペンとなったのだ。以前は新OSや新CPU発売されれば、PCを買い替える層が一定層いた。

性能を求めなくなれば価格勝負になる。自前で全ての部品を開発できないPC各社はHDDやCPUを他社から調達している。大量に部品を購入すれば単価が下がるので、グローバルで大量にPCを販売しているベンダーが有利になる。Q4の結果を見ると、Lenovo, HP, Dellの上位3社が伸びて寡占化が進んでいる。大量生産・販売しているPCベンダーしか生き残れないことを意味している。昨年からニュースになっている富士通、東芝のPC部門売却話はここに起因する。

とは言え、会社で働くのにPCの代替はでてきていないので(企業でスマホだけで働ける人は少ないだろう)、法人向けPCの需要は大幅に減ることなく、低成長を今後続けるに違いない。

f:id:tkan1111:20170206174004p:plain

スマホが削る個人向けPC

個人向けPCの不振は、おなじみスマホとタブレットの影響をまともに受けたのが原因だ。自宅でPCを使う層は減少し、スマホとタブレットでネットにアクセスする層が増大した。以前はPCでしか利用できなかったWebサービスもあったが、最近ではスマホ・ファーストになったので、ますますPCを使わなくて済むようになった(タブレットでさえ大画面スマホに飲み込まれようとしている)。

Microsoftが開く新しい地平

https://c.s-microsoft.com/ja-jp/CMSImages/SurfaceHome_6_FeaturePivotPanel_1_V1.jpg?version=7652482e-7f03-197c-6e6b-558b26ce51a9

ここにきて個人向けPCの減少が鈍化しはじめている。スマホに代替できるPC需要はすでに置き換わり、パーソナルコンピューターを使わないとできない作業を行う、いわばクリエイター層が個人向けPC市場の主役となっている。現にクリエイターに好まれるAppleは、iPhoneユーザーの流入もありMacのシェアを伸ばしている。っそのAppleの流れを止めるために生まれたのが、Microsoft Surfaceだ。今までMicrosoftはWindows OSと周辺機器に注力してWindows PCの開発は他ベンダーに任せてきた。DellやHPなどPCベンダーとOSを開発するMicrosoft、CPUマーケットを牛耳るIntelが協業しながらWindows PC市場を支えてきた。

ところが、スマホの登場と、iPhoneに引っ張られてシェアを伸ばすMacにより、Windows PCの販売台数は減少した。

Microsoftは2012年に方針を展開し、自社開発のタブレットPC『Surface』を発表した。WindowsをMicrosoftから購入してPCを販売しないといけない他社PCベンダーはコスト的にデザインに金を掛けられなかったが、Microsoftは自前のOSを使えるのでAppleと同じ土俵で戦うことができた。

デザイン面でもMacに劣らないSurfaceはクリエイター層に浸透し始め、Windowsブランドの向上に貢献した。iPhoneに軸足を置き、Macへ注力しなくなったAppleとは対照的だ。スマホでの競争に敗北したことでMicrosoftはPC市場に注力せざるを得なかったのだ。

海外の空港では以前はiPadをよく見かけるが、今ではSurfaceをよく見るようになった。コンサバティブでビジネス向けのイメージが強かったMicrosoft製品が、ここまで変わるとは筆者は想像できなかった。

Surfaceに続く他PCベンダー

http://i.dell.com/sites/imagecontent/products/PublishingImages/precision-coming-soon/precision_landing_page_1.jpg

他のPCベンダーもようやくMicrosoftのあとを追うようになった。CESでは、デルは27インチモニターをもつクリエイター向け『Dell Canvas』を発表、HPがハイエンド向けに発表した『EliteBook』の最新型は液晶が360度回転する。いずれもコンシューマー向けに開発された新製品だ。

ascii.jp

pc.watch.impress.co.jp

法人市場の寡占化が進み、個人市場ではスマホの脅威が一段落した今、DellとHPなど上位企業には余裕が生まれ、Microsoftに負けない革新的製品を開発できるようになってきた。iPhoneへ注力しているAppleとは反対に、スマホを持たないWindows PCベンダーはMacが強いクリエイター向けPC市場を獲得しようとしている。

2017年、この流れが続くのか注視したい。

 

Amazon Echoは日本でも流行るのか?

今年のCESの主役はAmazon Alexaだった。この記事によると700のAmazon Alexa対応の製品が発表されたそうだ。自動車はもちろん、冷蔵庫、ロボット、照明などが音声で操作できる。

www.huffingtonpost.jp

 

世界初のまともな音声認識

f:id:tkan1111:20170205185417j:plain

音声コマンドで家電を操作する仕組みは大昔からあるが、使い物にならなかった。音声認識技術が貧弱でまともに認識されず、何度も言わなければならず、認識できるのも単語だけで難しい命令はできなかった。

音声認識の難しいところは、テキストと違い、人によって声質も言い方も異なる点だ。声が低い人もいれば高い人もいる。同じ意味でも異なる単語を使う人もいるし、日本語だと同音異義語がたくさんあり、音声だけでは判別できない。

その状況がビッグデータによって大きく進化した。大勢の人の音声を収集し解析することで、多種多様な音声・言い回しに対応できるようになった。

知っている人は多いと思うが、AppleのSiriでもGoogleでも音声を認識しているのはスマホなどの端末ではなく、サーバー側のシステムだ。サンプルと照合してユーザーが何を言ったのか判断している。

Amazon Alexaは、システムを通して多くの音声を採集し認識技術を進化させ、一般の人が満足できるレベルまで到達した、おそらく世界最初の音声認識技術だ。初めてまともに使える音声認識機器としてAmazon Echoは大ヒットし、多くのユーザーが使用した音声データがAmazonに集まり、さらに解析技術が進化する好循環が生まれている。

もうひとつのAmazon Alexaの特徴は、流暢な発声だ。Siriの日本語版など聞くに堪えないほどAmazon Alexaの音声はきれいで、従来我々が体験していた電子音声とはレベルが違う。

かくしてAlexaのエコシステムは急拡大を遂げている。

 

 

 

Androidのときと同じ轍を踏むApple

f:id:tkan1111:20170205190028p:plain

日本人にとって身近な音声認識技術といえばSiriだ。iPhone 4Sに導入されて以来、「認識されない」「使えない」と言われながらも少しずつ進化し、使用するユーザーも増えてきている。

ところが未だに誤認識は多いし、機械音声もひどいものだ。日本語はもちろん、英語でもAmazon Alexaに差をつけられている。

垂直統合を是とするAppleはSiriでも囲い込みを行い、他社の製品にSiriの使用を許可していない。いつものパターンだ。

SiriはiOS 10でやっと他社アプリに解放された程度で、Appleのアプリが制御するCarPlayは各自動車メーカーがようやく採用し始めたところだ。

自社製品・アプリへ無償で自由に取り込めるAmazon Alexaと比べて敷居が高い。自社に囲い込み、ブランド価値を維持し、高い利益率をあげるのがAppleのテーゼなので仕方がないが、Androidがスマホを席巻したのと同様に、音声認識分野でもAppleは先行者利益を得られず、市場を占有できていない。

日本では?

日本語の障壁もあり、Amazon Alexaも対抗馬であるGoogle Homeもまだ日本へは進出していない(日本企業が地の利を得ているわけではないのは残念だが)。

「Ok, Google」を日本へ導入済みのGoogleは、日本でもGoogle Homeを早晩開始するつもりだろう。Amazonの日本語解析技術は未知数だが、すでに日本市場を制圧しているAmazonがこの分野だけ日本を無視するのは不自然だ。いずれAmazon Echoを販売するだろう。

では、アメリカのように日本でもAmazon Echoのようなスマートスピーカーは流行るのだろうか?

単身者には流行るが、家庭では難しいと筆者は考える。狭い日本の住居で単身者ならスマートスピーカーは使いやすいが、複数の家族が集まる狭小なリビングでは使いづらい。テレビの音が流れ、会話が交わされる中で音声コマンドを認識しづらいし、家族とは言え他者がいる前で予定などをチェックしたくない。

もうひとつ、アメリカとの差は”音声”に対する考え方だ。これだけスマホやSNSが流行っても、アメリカ人のコミュニケーションの中核は会話だ。

ascii.jp

この記事にもあるようにアメリカ人は会話が大好きだ。仕事をしていても日本人ならメールでやり取りして終わらせるところを、すぐに音声ミーティングを設定したがるのはアメリカ人だ。待つのが嫌いで、すぐに結論を求めたがるアメリカ人にとって会話はもっともダイレクトで素早い手段なのだ。

日本人は違う。特にSNS世代である若者は会話よりもLINEなどのメッセンジャー機能を好む。

 日本語固有の特徴も課題だ。同音異義語、曖昧な文節の順序は音声解析を難しくしている。アルファベットと数字が混ざるとさらに難しい。Qと9など文脈からでないと判断が難しく、ID番号を音声認識する時のネックになる。

 アメリカのように日本でもAmazon Alexaが流行するか今の時点では不明だが、キーボードやタッチパネルによる文字コマンドが面倒なのは誰しも感じるところだろう。まずは、音声コマンドが併用できるぐらい日本語の音声認識技術の進化が待たれる。

ソニーは映画部門を売却すべきか?

ソニーの第3四半期の決算は、ゲーム部門は好調だったが、映画部門の売上は前年同期比マイナス14%とソニー全体の足を引っ張った。メディアはソニーが映画部門を売却の交渉をしていると一斉に報じた。

av.watch.impress.co.jp

 

映画産業は作品によって当たり外れが大きく、売上が安定しない。今季の東宝の『シン・ゴジラ』『君の名は。』のようにヒットすれば大きな増収になるが、見極めが非常に難しい。 

飛べない”円盤”

今まではDVD・Blu-rayの売上を販売することで一定の売上を維持できていたが、ネット視聴が増えて売り上げが落ちている。近年Netflix、Amazonプライムビデオなど定額動画配信サービスが一気に伸びて、欧米だけでなく日本でも”円盤もの”の売り上げが急速に落ちている。旧作Blu-rayなど投げ売り状態だ。

LD、DVD、Blu-rayと高解像度の規格を繰り出すことでコレクターの需要を喚起していたが、次世代規格であるUHD BDはあまり盛り上がっていない。PS4 Proに搭載しないなどソニー自体がUHD BDに乗り気でない。ネットでの動画配信が主流になると判断しているからだろう。

コンテンツの時代

ネット時代になり、過去の成功体験が活かせくなった今、ソニーにとって映画部門はお荷物なのだろうか。

筆者は必ずしもそうは思わない。コンテンツの時代が来ているからだ。定額動画配信サービスが流行ったのは気軽にコンテンツを消費したい顧客が多い証左でもある。この流れが加速し、多くのユーザーが今まで以上に多数の映画をネットで鑑賞すれば、単価は下がっても総売上は増える。実際に今決算でもライセンス収入は大幅に上昇している。

自社の定額動画配信サービスに弱いのは課題だが、コンテンツの時代が続けば音楽部門と並んで映画部門がソニーの売上を支えてくれるはずだ。

 

Nintendo Switchに対抗するためにソニーが行うべきこと

任天堂はSwitchの予約台数についてコメントを差し控えているので、どれだけ売れているか不明だが、既存のゲーム業界に影響を与えることは間違いない。

www.nikkei.com

もっとも影響を受けるのはソニーだ。据置機としてはPS4、携帯機としてはPS Vitaとバッティングする。Switch発売に当たり、ソニーはどのように対抗すべきだろう。

PS Vitaを値下げ

http://www.jp.playstation.com/psvita/hardware/assets/images/kv_vita_pc.jpg

PS Vitaはかなり息の長いプロダクトになっていて、一般顧客の印象は薄くなってきているが、今でも週間10,000台前後日本では販売している。海外では携帯機が受け入れられていないのとスマホに押されて低迷しているが、国内ではまだまだ伸ばす余地がある。2015年秋に18,980円に値下げしてから、1年半経過している。そろそろ14,980円に値下げしても良い時期だ。

Switchは据置機のゲームを携帯できる点が長所になっている。PS Vitaなら基本性能は3DSより高いし、PS4があればリモートプレイができるので自宅のテレビを使わなくてもプレイできる。Wi-Fi環境が拡大している今なら宅外でもプレイできる機会が多いだろう。好調のPS4とあわせてPS Vitaを購入すれば、Switchの利点を潰すことができる。

 モモが主役のゲーム

f:id:tkan1111:20170203154511p:plain

任天堂の強さはハードの性能ではなく、ソフト開発力にある。スマブラやマリオカートなど定番ゲームや緻密に設計されたゲームは任天堂の大きなアドバテージだった。だが、HD以降は自社のソフト開発力がトレンドに追いついておらずスプラトゥーンなど少数を除き、ハードを支えるほどのゲームを開発できていない。Wii U不振の大きな原因である。

ソフト開発力が落ちても、キャラクターは残っている。マリオやポケモンなど豊富なキャラクター資産を使い、他社開発なら平凡な内容でもキャラクターで魅力あるゲームに見せている面が任天堂のゲームにはある。

ソニーはブランドイメージもあり、キャラクター戦略が弱い。本格ゲーマー向けにシフトしているPS4にとってキャラクターは無用かもしれないが、Switchの快走を防ぐために念のため、ここもつぶしておこう。

ソニーのキャラクターといえば、PostPetで一世を風靡したモモだろう。モモなどのPostPetファミリーをつかったゲームを投入し、ライト層へも入り込もう。

 

おまけ:PSクラシックミニを販売しよう

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/95/PSX-Console-wController.png/1920px-PSX-Console-wController.png

 

Switch阻止とは直接関係しないが、ファミコンクラシックミニの成功は任天堂がまだまだ健在なことを示した。ここでPSクラシックミニを販売して、家庭用ゲーム業界を全方位カバーしてしまおう。任天堂の初期ゲームより押しは弱いかもしれないが、パラッパラッパーやバイオハザード、ぷよぷよなど今でも遊びたくなるゲームは多い。販売すればファミコンミニに負けないヒットになるだろう。

 

ソニー視点でSwitch対抗策をいろいろ考えてみたが、空想めいたことばかりで、効果的なアクションはあまり思い浮かばなかった。ソニーのゲーム戦略とSwitchがめざす場所が大きく重複しないからだろう。ソニーはハイエンドの領域、Switchはハイエンドとスマホの中間を目指している。

そこはがだれもいない空白地帯なのか、そもそも両方に押されてそんな地帯は存在しないのか、Switchの成否はそこに懸かっている。

 

有機ELテレビは”第4の矢”

今年のCESで、ソニーとパナソニックが有機ELテレビを発表した。今まで液晶テレビに注力していたのに、日本の二社が同時に有機ELテレビへの参入を表明したのは、現時点で世界で唯一大型有機ELパネルを生産できるLGディスプレイが自社だけではなく、他社にもパネルを供給する決断をしたのがひとつの理由だ。

http://www.ces.tech/CES/media/news-images/photo-gallery/Show Day 4/_M4_7737.JPG?ext=.jpg

LG OLED TV display at CES 2017.

 

一社独占で販売していくよりも他社にパネルを供給・量産して、製造価格を下げ、より多くの製品を販売し、有機ELの知名度を上げる狙いがある。他社パネルで差別化を図れるか心配する向きもあるが、テレビの質はパネルだけで決まるのではなく、画像処理エンジンが鍵になるので、日本の二社でも十分競争になる。液晶も同様で、ソニーもパナソニックもテレビ用大画面液晶パネルを生産しておらず、他社から調達している。

 

今までずっと液晶テレビをプッシュしていた二社が有機ELテレビを発表したのは、現行の液晶テレビでは新機軸を作れなくなったからである。

薄型ハイビジョンテレビは2006年あたりから本格的に伸びてきて、2011年のアナログ停波が成長のピークで、停波以降大きく落ち込んだ。冷え込んだ市場を回復させるために導入されたのが2010年から販売されたフルHDの3Dテレビだった。

3Dテレビは一時期需要を喚起したが、3Dメガネを掛ける手間と、テレビを観る人数だけメガネを用意しなければいけないなどのネガティブな要因のせいで、大きく伸びずに消えていった。

代わりにメーカーが販売を開始したのが4Kテレビだ。2013年頃から本格的に売れるようになり、金額ベースで昨年出荷されたテレビの約7割が4K対応だった。地上波で4K放送はまだ始まっておらず、放送開始時には別途チューナーを購入しなければならない現行の4Kテレビは、かなり無理筋な商品だと筆者は思うが、ハイエンドを志向するユーザーが多い日本では定着した。

4Kテレビも本格的な販売から今年で4年が経ち、そろそろ次の需要喚起を考える時期にさしかかってきている。そこで新たな目玉としてピックアップされたのが有機ELテレビだ。本格的に普及していくのは来年ぐらいだろう。

  • 2006年 薄型ハイビジョンテレビ
  • 2010年 フルHD 3Dテレビ
  • 2013年 4Kテレビ
  • 2018年 有機ELテレビ

 薄型ハイビジョンテレビから数えて、有機ELテレビは”第4の矢”になる。有機EL技術技術が量産化できる時期にさしかかっただけでなく、マーケティング的に必要になってきたので、ソニーとパナソニックは有機ELテレビの販売を開始したのだ。

決算から見えるAppleの次の一手

Appleは2017年度Q1の決算を発表した。

iPhoneの販売台数は過去最高を記録し、電話記者会見でクックCEOは、iPhone、サービス、Mac、Apple Watchで過去最高の売上だったと強調した。 

iPhoneのiPad化

これだけだと、ここ一年の不調からAppleは脱したように聞こえるが、本当にそうなのだろうか。

クックが言及しなかった製品iPadは前年同期比22%マイナス、好調だったApple Watchを含む「その他の製品」はー8%だった。その他の製品には品切れが続くAirPodsやApple TVが含まれるのに低調なのはiPodの販売減が大きいのだろう。

一番の課題は、iPhoneへの依存がますます進んでいることだ。Apple全体の売上のうちiPhoneが占める割合は70%に迫る。iPhoneがこければAppleもこける状態は変わっていない。

iPhone 7 Plusが好調で、製品単価は694ドルとあがった。iPhone 6 Plus発売当時はスマートフォンではなくファブレットだと論評されたが今は誰も言わず、5.5インチ画面は普通のサイズと受け入れられている。

クラムシェル型のノートPCの発展型として、Windowsで流行る2-in-1のように、Macの受け皿としてiPad Proに期待していたわけだが良い結果は得られていない。MacBook Proの新型が発売されたこともあり、むしろMacの方が好調だった。

Windowsでもわかるとおり、Macが将来も好調を維持できるかは不明だ。そうなると、今後iPadの領域までiPhoneでカバーしないといけなくなる。iPhoneに大画面バージョンなど複数のモデルを投入する可能性が高い。噂の有機ELやiPhone Proがハイエンドモデルとしてカバーすることになるのかもしれない。iPadのようにiPhone向けのキーボードを販売もあり得ると思う。

 

f:id:tkan1111:20170201113126p:plain

増えるiPhoneファミリー

地域別に見ると、中国が低調で、その他の地域、特に日本が好調だった。Apple Payを開始した影響で日本はiPhone 7が伸びたのだろう。ローカルの新興企業が強いのもあるが、中国は以前の売上が盛り上がりすぎて平常な販売に戻ったとも言える。

Apple全体の北米の売上が占める割合は40%以下で、Appleが売上を伸ばすためには北米だけではなく全世界で売上を伸ばす必要がある。

そのためにも稼ぎ頭であるiPhoneを全世界の様々なニーズに対応するために、モデル数を増やしてくるだろう。新興国向けにiPhone SEのような廉価版、iPadの領域に踏み込む大画面モデル、日本のようなハイエンド志向の市場向けにiPhone Proの投入が考えられる。

すでに昨年は日本向けに独自のSKUを設けてFeliCa対応のiPhoneを発売した。今まで世界単一モデルを目指してきたAppleとしては大きな方針変更だ。モデルを増やせば利益を圧迫することになるが(今回研究開発費は増えている)、iPhoneに頼らざるを得ないAppleとしては、今回好調だったiPhone 7 Plusのような高価格のiPhoneを売ることでカバーするしかない。

強力なiPhoneブランドを背景にiPhoneファミリーを増やし、AirPodsなどのiPhone関連の周辺機器、アプリやサービスなどのエコシステムを強めていくのが今後のAppleの戦略になるだろう。

f:id:tkan1111:20170201122717p:plain

 

 

形を変えて生き残る物語

近年、アメリカでは電子書籍の売上が減少しているそうだ。

hametuha.com

 

日本では雑誌や漫画を中心に電子書籍の売上は堅調に伸びている。「日本は紙の本を捨てられないガラパゴスな市場」という主張は古く、アメリカより遅れたものの今は順調に日本の電子書籍市場は拡大している。

www.garbagenews.net

 

dマガジンというメシア

貢献したのは『dマガジン』に代表される定額雑誌読み放題サービスだ。dマガジンは、170誌以上の雑誌を読み放題で400円の低価格で人気を博している。日本の出版社との交渉は骨が折れるのか、docomoの支払いが良いのか、Amazonなどの外資系企業はついてこれず、この手の新規サービスには珍しく日本企業がリードしている。Kindle Unlimittedは一般書籍が中心だし、例の騒動でケチがついた。

docomoとの契約単価x利用者数が出版社の売上になり、読者が多いほど売上が増える仕組みだ。広告や表紙で雑誌を買わせる時代から、いかにページを読ませるか単発でもよいので魅力的な記事を掲載するかが雑誌の浮沈を決める時代になってきた。dマガジンには人気記事ランキングがあり、雑誌を横断して人気がある記事だけを読むことができる。

漫画の形態まで変えるスマホの影響

もうひとつ大きく伸びたのが無料漫画サイトだ。ネットサーフィンしていると、うざいぐらい広告が出てくるアレだ。無料なのはサンプルや短い話だけで、当たり前だが課金を目的としている。Kindleでも売れているのは漫画が圧倒的に多い。2015年度の売上でも、漫画は一般書籍の4倍ある。

漫画は分厚く冊数も多く場所を取るので、電子書籍に向いていると当初から言われていたが、やはり漫画の電子書籍はおおきく伸びている。

画面が大きい方が漫画を読みやすいが、タブレット販売の伸びは悪く、スマホの小さい画面で読むのが主流になっている。スマホで漫画を読むのが一般したことににより、漫画のレイアウトも変わりつつある。4コマ漫画みたいに縦スクロールで読めるレイアウトが増えてきた(スマホで読みやすい縦スクロール対応した小説というのも一案だと思うが、本題から逸れるのでここまで)。 

形を変えて生き抜くコンテンツ

今後も電子書籍市場は日本では堅調に伸びそうだ。出版業界は不況で弱っている。以前は出版業界独特の物流を守るために電子書籍には及び腰だったが、そんなことは言っていられない。自分の食い扶持が危ないのだ。

docomoのように外部の企業がコンテンツを有効的に販売する方法を出版社に提示し、既存の販売形態とは異なる新たなサービスを今後もだしてきそうだ。それによって、雑誌や漫画が今までとは別の形態に変わるかもしれないが、活版印刷の昔から書籍(コンテンツ)は技術とニーズによって形を変えてきた。

漫画主体のドラマや映画が日米ともに多いように物語コンテンツの重要性は変わっていない。これからも形を変えて良いコンテンツは生き残るに違いない。

トランプ大統領がIT業界にばらまくジョーカーの数々

トランプ大統領への希望的観測は、あっさりと打ち砕かれようとしている。

就任前は「今は選挙期間中だから酷いことを言っているが、大統領になったら変わるだろう」と言っていた評論家が、就任直後は「威勢に良いことを言っているのはブラフ(脅し)で、ビジネスマンが有利に交渉をすすめるための手段だ」に変わり、就任後十日経った今は「おいおい、本当にやばいんじゃないか?」に変わってきている。

 

先週7カ国からの入国を一時的に禁止する大統領令が発令された。すでに200名以上がアメリカへの入国を拒否され、ビジネスにも影響が出始めている。本コラムではトランプ大統領の施策によって今後IT業界にどのような影響があるか考えてみる。

 

移民の制限により人材確保が困難に

週末多くのIT企業の幹部が入国規制を一斉に批判した。

japan.cnet.com

多くのIT企業が強く反対したのは、自分たちのビジネスに大きく影響を及ぼすからだ。IT企業と言っても全米各地にあるのでひとつに語られないが、シリコンバレーがある西海岸の企業では移民が多く働き、中には起業する者もいる。

今回の規制は7カ国だけだが拡大しない保証はないし、アメリカへ移民を躊躇する優秀な人間も増えるだろう。3億人のアメリカ人だけから優秀な人間を探すより、全世界73億人から探したほうが見つかりやすいのは当然だ。

現代のITは一握りの優秀な人間が生み出すアイディアの良し悪しがビジネスを大きく左右し、工場やラボの品質がビジネスを決定するものではなくなっている。

移民がアメリカのIT起業で働かなくなれば、世界を変えるサービス・プロダクトがアメリカのIT企業から今までのようには生まれなくなる可能性が高い。

 

製造単価の上昇

トランプ大統領が最も強調しているのは「アメリカ人の雇用の拡大」だ。アメリカ企業がもつメキシコの工場を批判し、為替操作している中国が安い製品をアメリカに輸出していると主張する。

雇用の観点だけをみればメキシコ・中国の工場を撤退させ、アメリカに工場を新設すれば、労働者(特にトランプを支持した人々)の雇用は増える。一方で、アメリカの高い人件費で作られた製品は今よりも高価になる。高い製品を買わなければならないのはアメリカ人で、その他の国の人は今と同じ安い他国の製品を買えば良いので、アメリカ製の商品は世界で売れなくなる。

IT業界では、最終加工品を製造しているのはAppleやシスコなどアメリカの企業が多い。だが、製品の中身は必ずしもアメリカ企業の部品とは限らない。iPhoneの部品の50%以上が日本製、それ以外の部品も韓国・台湾メーカーが多い。

米国企業の工場をアメリカ本土へ移転させても、海外から部品を調達する必要がある。世界で製品が売れなければ部品の調達する資金もなくなる。その先にあるのは米国製造業の倒産であり、従業員のリストラだ。

アメリカへの工場移転は結果的に労働者を苦しめることになる。

 

アメリカ版グレートファイアウォールの建設

今のところよく知らないからなのか、トランプ大統領はサービスについて言及していないが、現在のIT業界でもっとも金が動くのは、Google・FacebookがリードするWebサービスだ。この分野はアメリカが圧倒的に強いのでオープンな環境は自国のビジネスにとってプラスなはずなのだが、トランプ大統領は貿易同様にWebサービスも制限する可能性がある。

制限する理由は、他国のサービスにアメリカへ進出しなくなるようにして、自国のサービスを守ること。中国の百度など海外発のサービスもの米国に進出してくるだろう。いまのうちに海外サービスの流入を防げば、自国のサービスを守れると新大統領が考えてもおかしくない。

もちろんオープンな環境を制限すれば、アメリカのサービスも他国へ進出できにくくなるが、トランプ大統領がそこを考慮するとは思えない。

 

もうひとつの理由が検閲だ。トランプ大統領はメディアとSNSの世界ですこぶる評判が悪い。メディアやSNSがデマをまき散らすので自分が不当に評価されていると思っている。その流れを止めるために情報の拡散を制限し、検閲を行う。中国のようにGoogle、Facebookサービスの禁止まで行うとは思えないが、今の調子だと決して絵空事ではない。

 

ビッグブラザーの到来

アメリカではジョージ・オーウェルの小説『1984年』が売れているそうだ。小説中の監視社会がアメリカで起こるとはまだ誰も信じていないだろうが、この3ヶ月で起こったことは、まさに「誰も信じていなかったこと」だ。

中国の首脳がアメリカの大統領に「オープンで公平な貿易の重要性」を説く奇妙な時代にすでに我々が踏み入れつつあるのは間違いない。

 

Switchを売るために任天堂がスイッチすべきこと

本コラムでは『Nintedo Switch』は液晶・バッテリーを外した安価な据置機で出せば売れたと論じているが、実際のSwitchはそうではない。

では、Switchが売れるために任天堂はどうすればよいのだろう?

f:id:tkan1111:20170115091127p:plain

3DSを廃止する

Switchが発表された時、専門家の多くはローンチタイトルの少なさに懸念を示した。サードの作品は移植作ばかりで、任天堂の作品はゼルダと『ワン・ツー・スイッチ』のみ。ゼルダはWii U用に開発されたゲームでSwitchの売りのひとつであるHD振動に対応していない。実質1作品だけがオリジナルなのだ。

ga-m.com

サードが弱いのは任天堂ハードの伝統なので、ローンチ初期は任天堂が頑張らないとダメなのだが、肝心の任天堂のソフト開発力が弱く、HD時代の業界水準に達したゲームを量産できなくなっている。

限られた開発リソースを集中させるために、3DSへのソフト供給を止めるべきだ。任天堂も据置機とポータブル機の両方にソフトを供給する限界はわかっていて、両方に対応できるSwitchを開発したのだが、現段階では3DSのソフト開発は継続すると宣言している。

gamerlife.blog.jp

Switchが成功すれば3DSは廃止されると思うが、いますぐ止めないとその成功を拝めなくなる。

Switch 2DSを追加する

任天堂は3DSの販売が低迷してきた時期に、折りたためない安価な2DSを追加した。北米市場を狙った商品だったので日本ではあまり売れなかったが、比較的ビギナーユーザーに強い任天堂にとって価格は大事だ。税込32,378円するSwitchは値段で敬遠される危険性が高く、廉価版の投入は効果的だろう。筆者としては液晶・バッテリー抜きのモデルを期待するが、ポータブル機として好評ならドックなしモデルがあってもいい。

ポケモンGOと連動する

親が子供のゲーム時間を監視できる以外にスマホとの連携は発表されていない。多くの人が保有するスマホと連動しない手はない。特に任天堂はポケモンの権利を持っているのだから、Bluetoothで連動させてSwitchでもポケモンGOが遊べるようにして、広いマップと捕まえたポケモン一覧が大画面で参照できれば、利便性が高まる。スーパーマリオランもスマホで購入したら、Switchを用いて大画面でプレイできても面白いし、課金するユーザーも増えるだろう。

f:id:tkan1111:20170125234159p:plain

 

Switch TV機能を付与する

テレビ機能を付与するのではなく、Apple TVやAmazonのFire TV Stickみたいにスマホの画面をテレビ画面に転送する機能だ。

定額動画配信サービスが流行っている今、テレビ画面への転送機能は喜ばれるだろう。スマホやタブレットで動画を鑑賞している人は多い。誰もがApple TVをもっているわけではない。

Fire TV Stick

Fire TV Stick

 

 

Wi-Fiの中継機能を付ける

Switchにかぎらず、一般家庭でもWi-Fiの利用用途は増えている。少し広い家だとWi-Fiがとどかない部屋もでてくる。SwitchがWi-Fiの中継器になれば使えるエリアも広がる。Blu-rayなどのマルチメディア機能はもはや不要だが、家庭のネット環境を拡張する機能はニーズがある。

 

BUFFALO 無線LAN中継機 エアステーション 11ac/n/a/g/b 433+300Mbps WEX-733D

BUFFALO 無線LAN中継機 エアステーション 11ac/n/a/g/b 433+300Mbps WEX-733D

 

 

残された時間はあまりない

PS4が世界的に成功している今のゲーム業界で、スタートアップに失敗すると挽回は難しい。新作マリオ、スプラトゥーンが揃う年内が期限だろう。それまでに良いモーメンタムが作れるかが任天堂浮沈の鍵となる。残された時間はそれほどない。

 

Nintendo Switch Joy-Con (L) ネオンブルー/ (R) ネオンレッド

Nintendo Switch Joy-Con (L) ネオンブルー/ (R) ネオンレッド

 

 

 

 

Evernoteはこの先生き残れるのか?

Evernoteとは?

Evernoteはクラウドにメモを保存できる草分け的ウェブサービスだ。余計なことは覚えずに何でも保存し、スマホ・PCがあればどこからでも閲覧できるサービスは、クールなルックスも相まって大人気となった。

マネタイズに苦労

ところが、他のWebサービス同様マネタイズに苦労し、迷走を始める。個人ユーザーがメインのところにGoogleを真似て有料ビジネスユーザーを募り(現在のCEOはGoogleあがり)、Appleのようにブランド価値に頼りグッズを販売し始めた。これらの試みはうまくいかず、グッズ販売していたサイトは閉鎖、Evernote本体以外に開発したWebサービスも次々とクローズしていった。

 フリーミアムの限界

収入のほとんどを占めている有料会員の数は全体のユーザーの2%だそうだ。フリーミアムは新しいビジネスモデルだと一時期騒がれたが、広告収入に頼れないサービスの多くは低迷している。

そのような状況で昨年Evernoteは無料会員がアクセスできる端末を制限し、会費を値上げした。この方針変更に従来のユーザーは反発した。

さらにダメを押したのが、一部社員がユーザーのデータを参照できるように規約を変更しようとしたことだ。ユーザーの猛反発を受け、実際に退会したユーザーもでて、この方針は撤回されたが、Evernoteのブランドを大きく毀損した。あらゆる情報をクラウドにアップし自分の頭脳のように使うことをEvernote自身が推奨していたのに、他人の頭脳を覗き見ると宣言したわけだから、当然の反応だ。もっとも、ほとんどのWebサービスは社員が預かったデータを閲覧できる規約をユーザーと交わしているのだが、改めて言われると、Evernoteの今までのブランドイメージと相反しているので、失望も大きかった。

 

MicrosoftのOneNote、Appleのメモなど大手の進出も著しいこの分野で、中規模ベンダーであるEvernoteが生き残るには熱狂的なユーザーを確保することが大切なのだが、このところの失態で支持を失いつつある。

 この先どうなる?

Evernoteはこの先どうなるのだろうか。原点に帰って、ユーザーの頭脳を拡張するためにクラウドサービスの改善に集中するべきだろう。もう一度、ユーザーの信頼を取り戻すために。

良い兆候は見える。先日アップデートされたiOS版は良質なデザインで、よく作り込まれている(ただバグは多く、中小ベンダーの限界も感じる)。

Microsoft、Appleのような大手のサービスしかない世界はつまらない。ぜひEvernoteには生き残って欲しい。

 

IT関連のブログをほぼ毎日更新していますが、本業は小説家です。
ブロックチェーンなどITを題材とした小説の他に、ミステリー、恋愛物、児童文学など様々なジャンルの作品を取りそろえています。
Kindle Unlimited会員ならすべて無料、非会員の人にも99円からご用意していますので、お読みいただけると幸いです。感想もいただけたら感涙でございます。

アツい定額動画配信サービス

先日、レンタルビデオチェーン店舗を統括する社長と話したら、現在のレンタル業界は散々たる状況だそうだ。一本50円にしてもDVDを借りる人は全く増えない、いずれなくなると相当悲観的だった。CDはまだ少し動くようだが、動画は全然駄目だそうだ。

背景には、Hulu、amazonビデオ、dTVなどの定額動画配信がある(その社長曰くNetflixは大して強くないとのこと)。

www.hulu.jp

動画配信は便利すぎて勝負にならないと社長は言う。店舗へ赴き、好みの作品を探し、観た後返却しなければならないレンタルビデオ店と、スマホで検索し好きな作品をすぐに観られる動画配信サイトでは雲泥の差がある。

特に返却の手間が大きい。DVDのディスクが時間制限で使い物にならなくなり返却不要になればいいのにと社長は愚痴ていた。

昨日アップしたAmeba TVの記事でもビュー数が伸びない理由に地上波と比較してアクセスに手間がかかる点を挙げた。地上波は容易にアクセスできるが、コンテンツの選択肢は限られている。定額動画配信サービスなら月々1000円そこそこで数多くの作品をいくらでも鑑賞できる。地上波とインターネットテレビのいいとこ取りが定額動画配信サービスだ。

 

今この定額動画配信サービスに激しい競争が起きている。Huluが日本でサービスを開始した2011年以来、多くのサービスが現れた。日本ではNTTドコモが運営するdTVが強い。月500円という低価格と日本発のコンテンツを多数抑えているので人気が先行しており、会員数は500万人を突破している。

こういったサービスでは珍しく国産が気を吐いているので、アメリカ発のサービスも日本語コンテンツを充実させざるを得ず、日本のユーザーに恩恵がある良い競争になっている。

定額なので一度ユーザーを囲ってしまえば毎月の収入が安定し、コンテンツの購入も計画的に行える。地上波とレンタルビデオにない良さを実感すれば、会員は容易に退会しない。定額サービスで会員を維持する方法は、月に一度は必ず利用させることだ。一度でも便利だと思えば、月に500円程度なら会員は容易に手放すことはしない。

一ヶ月無料などの特典を掲げて、どのサービスも囲い込みに必死だ。US大手のNetflixも進出してきて激化してきた競争に参入してきたのがAmazonプライムのビデオサービスだ。Amazonプライム会員なら追加費用なく多くの動画を鑑賞できる。最近ではAmazon独自のコンテンツも増えてきている。

他の動画配信サービスと異なり、AmazonはAmazonプライムに囲い込むための手段として動画配信を利用している。有料会員にしてしまえばお急ぎ便などの特別なサービスが利用できるAmazonで買い物をする頻度は増えるし、動画鑑賞のためにサイトへアクセスが増えれば商品に目がいく機会も増える。だから追加費用なく大量のビデオを配信できるのだ。

おそらく他のサービスも動画配信だけではなく、商品の販売を遅かれ早かれサイトで行わないとAmazonと競争できない時期が来ると思う。また、別の新たなサービスで対抗するのか。この分野は当面アツい。

Amazonプライム・ビデオ

Amazonプライム・ビデオ

 

 

Ameba TV躍進へのヒントは繭(コクーン)の中に

サイバーエジェントの決算が発表された。無料のインターネットテレビ局『Ameba TV』を含むメディア事業は売上高は約60億万円だったが、営業損益はマイナス約46億円だった。

www.nikkei.com

Ameba TVは、受動的に地上波放送を『ながら見』している層、既存のテレビでは満足できない若者をターゲットにしている。

インターネットは自分で検索し、面白いコンテンツを見つけるのは宝探しみたいで楽しいが、能動的に動くのが億劫なときもある。地上波のように何の手間もなくダラダラと観続けるメディアをAmeba TVは目指している。

ところがダウンロードしたユーザーは1300万人を超えたが、アクティブ視聴者数は鈍化している。事業が黒字になるには1000万人の視聴者層が必要らしいが、年末年始が終わった今月のアクティブ視聴者数は360万人。相当の開きがある。

TVの視聴率は世帯視聴率なので、10%の視聴率が1000万人の視聴者数とはならないが、ほとんどの家庭にあるテレビでも1000万人の視聴者数は相当難しい数字だとわかる。

gamebiz.jp

Ameba TVの視聴がテレビほど気楽に観られない点が視聴者増加の障壁になっている。多くの人が朝起きたらまずテレビをつけ、帰ってきたらとりあえずまたテレビのスイッチを押す。電源ボタンを押せばすぐに画面が表示されるテレビと比べれば、スマホなどのデバイスのロックを解除しアプリを立ち上げないといけないAbema TVでの作業は煩雑だ。

Abema TVをスマホで視聴している人は8割近い。

industry-co-creation.com

現代人がテレビをだらだら観るときにどうしているだろう? スマホをいじりながら横目でテレビ画面を観ている人が多いのではないだろうか。スマホを使って視聴したら、当たり前だがスマホを操作できない。

 

クレームを恐れて自主規制に縛られた既存の地上波放送に飽き飽きして、新しいメディア、インターネットテレビを望んでいる人は多い。できればAmeba TVが成功し、次々とインターネットテレビが流行って欲しい。どうしたら、インターネットテレビをもっと多くの人が観てくれるようになるのか。

 

ヒントはコクーンにある。コクーンとは、2002年にソニーが販売したHDDレコーダーだ。

 

f:id:tkan1111:20170126203914p:plain

 

コクーンは画期的なレコーダーだった。当時DVDに焼いて残すのが一般的だったレコーダーの中でDVDドライブを持たず、HDDがいっぱいになったら自動で消去してくれた。

コクーンの最大の特徴は「おまかせ録画」だ。オーナーの好みの番組を判断して自動で録画して保存してくれた。録画された番組が好みでないとコクーンに伝えれば次回からは録画しなくなる。視聴する時間が多いジャンル、例えばサッカーの試合をよく観れば重点的にサッカー番組を録画してくれる。ジャンルだけではなく、好きな俳優が出演する番組も自動で録画できる。

録画した番組を家族の好みごとに自動で仕分けしてくれる機能まであり、あたかも自分好みのチャンネルができたように思えてくる。

 

Ameba TVに必要なのは、この自動カスタマイズ機能だ。視聴者の好みの番組をまとめて延々と流してくれれば、地上波よりも気楽に自分好みの番組が「ながら見」ができる。ザッピングする必要もない。Amazonのリコメンド機能をみてもわかるように、コクーンが販売されていた時代よりもはるかにAIは発達しているし、Ameba TVはネット上で観られているわけだからテレビ番組よりもメタデータを容易に管理できる。

あたかも自分だけの好みのチャンネルを作れれば、テレビよりも気楽に視聴できるとPRできるだろう。 様々なインターネットテレビ局が良質な番組と自動カスタマイズ機能を訴えて競争しだしたら、メディア業界ももっと活気づくと思う。

 

『スーパーマリオラン』で透けて見えたマリオブランドの希薄さ

『スーパーマリオラン』が思ったより売れなかったようだ。全世界で9000万ダウンロードされたが、課金したユーザーはわずか3%だった。 

f:id:tkan1111:20170125234159p:plain 

biz-journal.jp

 スマホゲームの世界では珍しい1200円の買い切り型が受け入れられなかった。上達すれば無料でも長く遊べるスマホゲームに慣れたユーザーには割高に取られた。

買い切り型への反発は任天堂も想定していたが、マリオなら乗り越えられると考えたのだろう。

市場から要求されても任天堂は頑なにスマホへ参入してこなかった。スマホ世界の低料金に飲み込まれ、既存ゲームの売上に影響が出たら、今までの業績を維持できなくなるからだ。課金システムが子供をターゲットにしている任天堂ブランドに馴染まないのも敬遠した理由のひとつだった。

市場の圧力に抗うことができず、ついにスーパーマリオランで任天堂はスマホゲームに参入した。ただ飲み込まれないように任天堂は既存ゲームとの差別化を周到に図った。

マリオがオートで走り、ワンタップでジャンプするのは、コントローラーがないスマホの欠点をカバーするのと同時に、マリオの行動を制約した。「自由にマリオを操りたかったらコントローラーがあるコンソール機を買うしかない」のメッセージが聞こえるようだ。

マリオの動きに制約をかけても、マリオブランドがあれば障害を乗り越えて飛躍できると任天堂は判断した。リオ五輪の安倍マリオで注目を集め、iPhone 7の発表会で取り上げられたのに、それでも売上に繋がらなかった。任天堂の想定よりもマリオブランドは弱かったのだ。

スーパーマリオブラザーズ以降の2Dマリオは二次元の世界で生きている。もしも正面から見たら、そのマリオはとても薄い。

スーパーマリオメーカー for ニンテンドー3DS - 3DS

スーパーマリオメーカー for ニンテンドー3DS - 3DS

 

 

Amazon Dash Buttonはヤバくはないが、役には立つ

日本でも開始された『Amazon Dash Button』を2つ注文した。スマホやPCを使わなくてもボタンひとつで日用品が注文できるAmazon Dashは、常時iPhoneを握りしめている筆者には不要だと思ったが、実質無料(ボタンは500円するが一度注文すると500円割引される)なので、炭酸水2種類のボタンを注文した。

冷蔵庫に貼って機能を説明したら筆者よりもITの知識が乏しい妻は「便利だね」と好意的に受け止めていた。

 

f:id:tkan1111:20170124125150j:plain

 

創業者ペゾスの言葉私はアマゾンを地球上で最も顧客中心の会社にして、多くの組織のロールモデルになりたいのとおり、Amazonは常に顧客のためを考えてきた会社だ。少しでも便利に買えて早く商品を届けるために様々なサービスを提供してきて、世界最大のイーコマース企業にAmazonは成長した。

創業時の方針は全く揺らいでいないが、近年のAmazonは実験的なサービスを試すようになった。「失敗を恐れない。試さないことを恐れろ」というAmazonの指針もあるだろうが、AWSの成功でファイナンス的にゆとりがでてきたのも大きい(AWSの売上は、はじめて北米Amazon.comの売上を超えた)。実店舗の書店『Amazon Books』レジを置かない『Amazon Go』、ドローン配送、1時間以内配送の『Amazon Prime Now』など、他の企業が手を出せないサービスを世に出している。

 

Amazonのサービスを目的別に分類すると、こうなる。 

早く届ける・・・『Amazon Prime Now』、ドローン配送

便利に買える・・・Amazon Books』『Amazon Go』

 

これだけ様々なサービスを提供しても、まだAmazonが制覇していない領域が食料品と日用品だ。Amazonは販売全てを牛耳っているように見えるが、もっとも強いのは書籍・DVD、ITガジェットなどの消費財だ。

一般家庭の支出のうち食料品が占める割合は25%、日用品は15%ある。Amazonが得意な書籍やDVDが含まれる教養は10%以下だ。

Amazonも食料品・日用品を扱っているが、ライバルにまだ勝てないのは配送がネックだからだ。単価が低い食料品・日用品を通販で購入すれば配送費が割高になる。生鮮食品であれば鮮度の課題もある(将来的には『Amazon Prime Now』が解消するかもしれないが)。

他にも、食料品・日用品を詰めてひと箱あたり290円で配送してくれる『Amazonパントリー』を用意して配送費の負担軽減を試みている。

Amazonパントリー

 だが、配送費がゼロ円の強力なライバルがいる。”近所のお店”だ。ドラッグストア・コンビニ、スーパーマーケットは街中いたるところにある。欲しい時、通勤通学途中にふらっと寄って買うことができる。

ネットとスマホがなくては一日も生きていけない筆者のような人間はリアル店舗よりネットで注文したほうが便利だと思うが、簡単に店舗とリアルな商品へリーチできるのは、妻のような一般顧客には近所の店のほうがまだまだ”便利”なのだ。

 

Amazon Dashの試みは、この食料品・日用品を店舗で買う層をターゲットにしている。選択ができずに不便に思えるが、自宅でボタンを押せば買える仕組みは、極限まで”便利”に買える”を追求している。スマホを立ち上げてトイレットペーパーを買うのは億劫で近所のスーパーに出かけて買う顧客をネットに引き込むために、Amazon Dashはこのボタンを無料で配っているのだ。

 

こうやって見てみるとわかるとおりAmazon DashによってAmazonの戦略が変わったわけではない。’楽に買える”というAamazonのテーゼを追求したサービスだということがわかる。広告で人を引き寄せて買わせる旧来の販売戦略ではなく、顧客がダイレクトかつスムーズに商品を選択・購入できる仕組みを作るAmazonの戦略そのまのだ。販路を抑えて広告を取るのが目的ではなく、広告を死滅させるのがAmazonの目的だ。

街中に店舗がひしめく日本で、Amazon Dashが定着するかは興味深い。ただ、Amazonからみれば、たとえ定着しなくても、また別の”便利に買える”サービスを考案するだけだろう。Amazonの方針が変わることは当面なさそうだ。

 

ウィルキンソン Dash Button

ウィルキンソン Dash Button

 

 

サントリー天然水 Dash Button

サントリー天然水 Dash Button

 

 

PS VRが雲隠れしている理由

解体されるソニービルから銀座四丁目交差点の『銀座プレイス』(旧サッポロ銀座ビル)へソニーショールームとソニーストアは移転した。ソニービルから展示場面積は縮小しているので、全体的に窮屈でソニーのブランドイメージ向上というより普通のショールームとしてホームシアターや一眼レフカメラαなどの既存ソニー製品に触れることができる。もちろんヘッドホンなどを買ってその場で持ち帰ることができる。

取り立て面白い展示があったわけではないが、気になったのはPS VRの扱いだ。ここ一年で最も注目を集めたソニー製品といえばPS VRだ。多くのテレビ番組でも取り上げられ、発売から三ヶ月経過した今でも品切れの人気商品だ。

f:id:tkan1111:20170123143506p:plain

 ところが、ショールームではPS VRの体験デモを行っていなかった。Webや紙面では感動が伝わりにくいVRは体験してもらことが大事なのに何故ソニーはデモを行わないのだろう。昨年の11月以降、体験会は実施されていないようだ。

まさかソニーが運営するショールームがデモ機を確保できないとは思えないので、何らかの意図があって体験デモを行っていないのだろう。

 

ひとつ考えられるのは子どもへの配慮だ。PS VRは他のVR機器と同様に12歳未満は使用禁止のガイドラインがある。親子連れの客で親だけが体験できると子どもがやりたいと騒ぎだすのを防ぐためという理由だ。

だがソニーのショールームはビルの上階にあり、親子連れが来る雰囲気でもなく、筆者が訪れたときも子どもはいなかったので、そこまで大きなリスクだとは思えない。

 

次に考えられるのは、新規モデルが控えている説だ。PS VRは初代モデルとしてはよくできているが、解像度がHDではない、コード接続が複雑などの課題は残った。課題を解消するために次期モデルを開発しているとは思うが、あまりに早い新モデル投入は、すでに購入した現行ユーザーの離反を招くリスクがある。これからVRを盛り上げていこうとしている段階でブームに水を差すリスクは負わないだろう。

 

なにか別の理由があるのだろうか。PS VRの販売台数は極端に少ないのでは? とネットで最近騒がれている。ソニーはPS VRの販売台数を開示していない。

一ヶ月に一度程度、追加販売の予約が設定されるだけで、店舗で気軽に購入する状況に至っていない、販売から三ヶ月経って、ここまで品切れなのはおかしい、大量生産できない不具合があるのか、販売台数を制限して品薄商法を行っているかどちらかだというのだ。

需要に供給が追いついていない現状、故意に台数を制限する理由はソニーにはない。品薄商法を意図したとしても現状のデマンドを見れば戦略を改める時期だ。

生産に苦労しているとは考えられる。需要を喚起する体験会を行わず、生産台数に見合うように需要をコントロールしている可能性はある。加熱しすぎたブームは冷めるのも早い。

ただ、今のままの供給状況が続くと、ブームを終わらせてしまう危険性も高まってくる。

 

ちなみに、ソニーのショールーム下にある日産ショールーム『NISSAN CROSSING』にはPCに接続したVR機器が置いてあり、日産車の試乗をバーチャル体験できた。休日でも空いていてすぐに試すことができた。これぐらいイージーにPS VRを体験できて、感動したその場で購入できれば、今後成長が見込まれるVR市場をソニーはリードできるだろう。

 

PlayStation VR PlayStation Camera同梱版

PlayStation VR PlayStation Camera同梱版