ここ数年PCの売上は全世界で伸びていない。2016年の年間出荷台数は前年より-6%の見通しである。
PC出荷は法人向けと個人向けに分けられるが、近年は両市場で課題を抱えている。
ボールペンとなったPC
法人向けPCは”文房具”と化している。多くの企業はPCにこれ以上の大幅な進化を求めておらず、安くて丈夫な製品があればよいと考えている。ボールペンに進化を求めている人は少ないだろうし、新商品がでたから部内のボールペンをすべて買い換える企業は皆無だろう。PCはボールペンとなったのだ。以前は新OSや新CPU発売されれば、PCを買い替える層が一定層いた。
性能を求めなくなれば価格勝負になる。自前で全ての部品を開発できないPC各社はHDDやCPUを他社から調達している。大量に部品を購入すれば単価が下がるので、グローバルで大量にPCを販売しているベンダーが有利になる。Q4の結果を見ると、Lenovo, HP, Dellの上位3社が伸びて寡占化が進んでいる。大量生産・販売しているPCベンダーしか生き残れないことを意味している。昨年からニュースになっている富士通、東芝のPC部門売却話はここに起因する。
とは言え、会社で働くのにPCの代替はでてきていないので(企業でスマホだけで働ける人は少ないだろう)、法人向けPCの需要は大幅に減ることなく、低成長を今後続けるに違いない。
スマホが削る個人向けPC
個人向けPCの不振は、おなじみスマホとタブレットの影響をまともに受けたのが原因だ。自宅でPCを使う層は減少し、スマホとタブレットでネットにアクセスする層が増大した。以前はPCでしか利用できなかったWebサービスもあったが、最近ではスマホ・ファーストになったので、ますますPCを使わなくて済むようになった(タブレットでさえ大画面スマホに飲み込まれようとしている)。
Microsoftが開く新しい地平
ここにきて個人向けPCの減少が鈍化しはじめている。スマホに代替できるPC需要はすでに置き換わり、パーソナルコンピューターを使わないとできない作業を行う、いわばクリエイター層が個人向けPC市場の主役となっている。現にクリエイターに好まれるAppleは、iPhoneユーザーの流入もありMacのシェアを伸ばしている。っそのAppleの流れを止めるために生まれたのが、Microsoft Surfaceだ。今までMicrosoftはWindows OSと周辺機器に注力してWindows PCの開発は他ベンダーに任せてきた。DellやHPなどPCベンダーとOSを開発するMicrosoft、CPUマーケットを牛耳るIntelが協業しながらWindows PC市場を支えてきた。
ところが、スマホの登場と、iPhoneに引っ張られてシェアを伸ばすMacにより、Windows PCの販売台数は減少した。
Microsoftは2012年に方針を展開し、自社開発のタブレットPC『Surface』を発表した。WindowsをMicrosoftから購入してPCを販売しないといけない他社PCベンダーはコスト的にデザインに金を掛けられなかったが、Microsoftは自前のOSを使えるのでAppleと同じ土俵で戦うことができた。
デザイン面でもMacに劣らないSurfaceはクリエイター層に浸透し始め、Windowsブランドの向上に貢献した。iPhoneに軸足を置き、Macへ注力しなくなったAppleとは対照的だ。スマホでの競争に敗北したことでMicrosoftはPC市場に注力せざるを得なかったのだ。
海外の空港では以前はiPadをよく見かけるが、今ではSurfaceをよく見るようになった。コンサバティブでビジネス向けのイメージが強かったMicrosoft製品が、ここまで変わるとは筆者は想像できなかった。
Surfaceに続く他PCベンダー
他のPCベンダーもようやくMicrosoftのあとを追うようになった。CESでは、デルは27インチモニターをもつクリエイター向け『Dell Canvas』を発表、HPがハイエンド向けに発表した『EliteBook』の最新型は液晶が360度回転する。いずれもコンシューマー向けに開発された新製品だ。
法人市場の寡占化が進み、個人市場ではスマホの脅威が一段落した今、DellとHPなど上位企業には余裕が生まれ、Microsoftに負けない革新的製品を開発できるようになってきた。iPhoneへ注力しているAppleとは反対に、スマホを持たないWindows PCベンダーはMacが強いクリエイター向けPC市場を獲得しようとしている。
2017年、この流れが続くのか注視したい。