東京都内のタクシーが価格改定で、初乗り410円になった。近距離客を増やすのが目的だが、中にはUber(ウーバ)対策という報道もあった。
Uberはアメリカ発の配車サービスだ。既存のタクシーと異なり、Uberでは一般の人が自家用車を利用して客を運送できる。
初乗りの値段を下げて、今までタクシーを敬遠していた利用者を増やし、タクシーを利用する習慣をつけてもらい売上を増大させるのが今回の価格改定の目的だ。
値下げを決断した背景にはUberに代表されるシェアリングエコノミーのプレッシャーがある。日本では「白タク」規制が厳しく、Uber本来の一般人による配車サービスは今のところ行えていないが、東京オリンピックを前に規制緩和のプレッシャーは強くなる一方だ。規制緩和の前に顧客を囲い込みたい焦りを値下げから感じる。
ただ、値下げしてもUberには対抗できない。タクシーと比較してUberはそれほど安くない。Uberが優れているのは、タクシーが利用者が抱く不満を分析して、解決策を提示している点だ。
”店”を選べない
店舗販売などの業種と比べてタクシーは変わったビジネスモデルだ。タクシーを利用するときに、多くの人はタクシー会社を気にしない。選びたくてもタクシー乗り場に他の客が並んでいれば順番に来たタクシーに乗らざるを得ない(チケットでの利用や法人契約しているタクシーもあるが、ここではUberのターゲットである個人利用に限定して話す)。
牛丼を食べたくて入店したら、吉野家かすき家かどちらかの牛丼がランダムで出てきたら驚くだろう。タクシーではこういうケースが起きるのだ。利用客が選べないのだから、タクシー会社だけではなくサービスを提供するドライバーも利用するたびに異なる。
毎回客が違えば、サービスを向上させるモチベーションも湧きづらい(世界の中では日本のタクシーは品質が高いが)。頑張っても自社の利用客の増加に結びつきにくいし、個人タクシーであれば、ほぼ皆無だ。
一方、Uberではドライバーを利用客が評価することができる。高評価のドライバーは客から優先的に選ばれるし、逆に低評価が続けば商売ができなくなる。高いサービスを提供し、効率的な道順を覚えれば、自分の売上に繋がる。
密室空間
タクシーの中はドライバーと利用者の密室空間だ。客が一人ならドライバーと二人きりになる。客側は身分を明かしていないので運転手は誰を乗せているのかわからない。他の業種ではあまりない状況だ。宅配サービスであれば客側は個人情報を店側に渡しているし、店舗であれば他の従業員がいる。
タクシー強盗は、こういったタクシーならではの特殊な状況だから発生する犯罪だ。
Uberでは個人情報をUberが管理しているので密室での犯罪を防げる。ドライバー側も客を評価できるので、態度が悪く評判が良くない客をドライバーが拒否できる。タクシーで起きるリスクを事前に回避できるのだ。
支払額が不明
店で商品を買うときも、サービスを受けるときも支払額が予めわかっているのが普通だ。店でマッサージを受けるとき60分3,000円など価格を知ってからサービスを受ける。
タクシーは違う。行き先へ到着するまで支払額がわからない。ドライバーの経験則で質問はできるが交通事情により支払額は変動する。渋滞に遭遇すると、いくらかかるかドキドキしながら利用客は席に座っていることになる。
Uberは基本的に事前支払いだ。予約前から金額が判明している。
事前予約
Uberは配車を事前予約するのが一般的な使い方だ。近くを走る空車をスマホで簡単に検索できるので、手間がかからない。一般のタクシーは大都市なら流しのタクシーを掴められるが、地方や夜間の繁忙期だと容易に捕まらない。タクシーを見つけて手を挙げたのに実車だった体験した人も多いだろう。Uberが発達した都市なら時間と場所を指定して簡単に予約できるので、タクシーを探して途方に暮れる苦労はなくなる。
最近では日本のタクシー会社も配車予約ができるアプリをリリースしているが、Uberより使い勝手が悪い会社も多いし、ドライバーと車種を選ぶことができない。
美しき解決法
見てきたように、既存ビジネスの問題点を改善するためにITインフラの力を借りて見事な解決方法を提示したのがUberだ。シェアリングエコノミー、新しいWebサービスという切り口にとどまらず、Uberが行ったことはiPhoneと同じく既存ビジネスの破壊的改善だ。
破壊される方からしたらとんでもないことなので、日本だけではなく全世界で既存ビジネスと衝突しているが、サービスを選ぶ権利は客にある。我々が声を上げれば日本でもUberが今後一般化するだろう。