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牧歌的な世界は戻ってこない

クックとザッカーバーグの論争

AppleのCEOティム・クックとFacebookのCEOザッカーバーグによる個人情報に関する論争が止まらない。

www.bloomberg.co.jp

一連のFacebook上における個人データ不正収集問題について、クックは顧客情報で商売している、自分だったらこういう事態にならないと批判し、当のザッカーバーグは「お金を払わない人はサービスを受けることができないのはおかしい」といった趣旨の反論をした。 

異なるビジネスモデル

どちらかが一方的に間違っているわけではなく、両者の異なるビジネスモデルによるスタンスの違いが大きい。現在、IT大手は大きく分けて3つのビジネスモデルを進めている。

  • 製品・サービスを販売・・・Apple、多くの韓国・台湾ベンダー
  • 原則無料。ただし顧客情報に基づいた広告を表示・・・Facebook、Google
  • 原則無料だが、フルサービスを受けるには有料・・・Evernote、Dropbox、Microsoft (Office 365など)

 Appleは古くからあるモデルで、創業より変わっていない。圧倒的なブランド力と創造的な製品開発力で他にない製品を販売し、成長してきた。

一方で、FacebookやGoogleは原則無料でサービスを提供する代わりに、収集した個人情報に基づいた広告を表示し、広告主から広告料金を徴収している。

ザッカーバーグが言うように、もしもFaebookが有料制だったら、料金を払えない(払いたくない)人は利用できずに、知人と繋がりスムーズなコミュニケーションをとることができなくなる。もっとも、Facebook上で人との繋がりが希薄になると困るのは、存在価値を失うFacebook自体でもあるのだが。

フリーミアムの道は険しい

広告料金の代わりに少額のコストをユーザーに負担してもらう方法もあるが、フリーと有料の差は、果てしなく大きい。多くの無料サービスで有料会員の割合は、だいたい3%から5%ぐらいと言われる。たった1ドルでもお金を払うことの心理的障壁は高い。

買わなければユーザーがお金を支払うことはない、ユーザーが自分をコントロールすれば無料の広告モデルは、多くのユーザーにサービスを提供する妥当なモデルと言える。お金を直接支払わない代わりに、今回の事件のように個人情報が使用される危険性はあるし、勝手に広告を表示されるということは、自分の時間を切り売りしていることでもある。

Appleの古き良き商売の前提

一方、良い製品を売って儲けるAppleのビジネスモデルは、古き良き商売のように聞こえるが、Appleが垂直統合型のモデルだということを忘れてはいけない。iOS、macOSを使いたければ、Appleの製品を買わないといけない(大抵の場合、他社より割高だ)。他社へライセンス提供しないことで、顧客を囲い込み、それがブランド力の源泉となっている。どんな良いものでも、Appleの製品を買わないと使うことはできない。

誰でも自由に使えるFacebookのモデルとは対極である。

牧歌的な市場は戻ってこない

最初に言ったように、どちらかのモデルが間違っていることではない。もちろん、個人情報の管理はルールを決めて厳格に行ってもらわないといけないが、これだけSNSやWebサービスが発達した時代では、個人情報を集めるのは容易で安価すぎる。

大昔、商店街で買い物をするとき、馴染みの店の店員は、誰が何をよく買うか知っていて、「奥さん、今日はサンマが安いよ」とリコメンドしていた。そういう関係と知識が商売の優位性となっていた。

現代のAmazonのリコメンド機能や広告モデルは、お得意様を囲い込む手法がシステム化したものだ。システムがグローバル化し大規模した現代に、牧歌的な市場は戻ってこない。

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