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Switchで変わった任天堂のゲーム開発戦略

Wii Uで低迷した任天堂がSwitchで復活したひとつの要因はゲームソフトの質の改善だ。

SUPER MARIO ODYSSEY スーパーマリオ オデッセイ

改善された点

  • 既存の枠に囚われない
  • 遊びきれないほどのボリューム
  • 細部まで徹底された品質管理

既存の枠に囚われない

「スーパーマリオオデッセイ」(以下マリオオデッセイ)を例にとって説明する。

多くの人が楽しんだマリオも「スーパーマリオブラザーズ」が登場してから30年以上経過し、飽きてきた人も多い。長く愛されてきたブランドを維持するのは本当に難しい。変えてしまえば昔からのファンが愛想をつかすし、変えなくてもファンは飽きて去っていく。

「マリオオデッセイ」は、新しい部分と従来から変えない部分が絶妙なバランスを保っている。

  • 人間や恐竜などリアルなキャラクターが登場 (新しい部分)
  • キャプチャーによる変身 (今までにもあった変身の延長)
  • 2Dマリオステージ (過去の継承)

「都会の国」やティラノサウルスなど、今までのマリオの世界では考えられないリアルなキャラクターと世界が「マリオオデッセイ」には存在する。今までの世界観が壊れてしまいそうだが、そこに工夫がしてある。マリオが着替えをすることで、どんな世界でも溶け込めるようにしてある。

戦車やティラノサウルスなど、今までのマリオの枠に囚われない自由なキャラクターで遊べるキャプチャー機能は「髭さえついていれば、なんでもマリオ」というぐらい自由度を広げている。

それが受け入れられるのは、今までの「ネコマリオ」のように変身できたからで、ユーザーは変身の延長線上にキャプチャーを見ているから違和感が小さい。

新しいものばかりではなく、2Dマリオゲームを配置したり、ドンキーコングのキャラクターの起用など過去との繋がりを大事にしている。これにより、これが「マリオ」なのだと印象づけている。

圧倒的なボリューム

従来の任天堂ゲームは面白いがボリュームは少ないというのが定評だった。前作の3Dマリオ「スーパーマリオ3Dワールド」はクリアー後に完全なエンディングを見るためには同じステージを別キャラクターで何度も行わないといけない。マリオオデッセイでは、ステージに隠されたパワームーンを探すために、まだクリアしていない仕掛けを経験できる。その数は数百。ローカルコインの入手もあるので、ちょっとやそっとじゃ終わらない。

Switchのローンチソフトである「ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ザ・ワイルド」(以下、ゼルダの伝説)も圧倒的なボリュームでユーザーを驚かせたが、マリオオデッセイでも同様だ。

Switchは発売が延期になったが、その影響はソフトウェア開発にあると思われる。納得いくまで開発したゲームではないと売れない危機感から、ハードを延期してまで任天堂はゲームの完成度を追求した。

徹底した品質管理

もともとは任天堂ゲームの品質は高いという評判だったが、Wii Uのゲームは玉石混交していた。例えば『Wii Party U』は、前作のWii版で840万本とヒットしたのに、単調なマップや代わり映えしないミニゲームで不評だった(実際の開発は任天堂子会社のエヌディーキューブ)。

大ブームを起こしたWiiが急速に失速したのは任天堂のゲームしか売れずにサードが売れないのが要因と考えた任天堂は、Wii Uでは自社ゲームだけではなく、サードのゲームが伸びるように注力した。その結果、Wii Uのゲームに魅力がなくなり、Wii Uの販売自体が低迷した。

Wii Uの反省からSwitchでは緻密な計画に基づき、良質な任天堂ゲームを惜しげもなく投入した。その結果、Switchで売れたゲームのうち任天堂製のゲームの比率は7割を超えている。

これではWiiの二の舞いになりそうだが、任天堂はSwitchでインディーズ会社へ門戸を開き、多種多様なゲームを用意している。今まで高額だった開発機を安価で提供し、資金力がないクリエイターも開発に参加できるようにした。今のところSwitchでバーチャルコンソールを実装しないのもインディーズ市場を潰さないためかもしれない。

大作ゲームは任天堂、ミニゲームはインディーズという棲み分けができてきている。

問題をとことん詰めるのが任天堂

見つけた課題に対して徹底的に対処する手法を任天堂は今までも取ってきた。「ゲーム人口を増やす」ために今までのゲーム機とは形状が異なるWiiを開発、テレビを占有しないように液晶画面を搭載したWii U。

スローガンは立派だし納得がいくものだが、従来の任天堂は、そのスローガンに対して十分な議論がなく、スローガン達成そのものがゴールになってしまった印象を受ける。ハードもソフトも煮詰まっておらず、最初の掛け声は良いが、その後が続かない。

Switch以降は社内で議論を重ね共通認識を作り、あるべき姿と現実を近づける作業を綿密に行った形跡がある。急な社長交代により、集団指導体制が敷かれた影響も大きいのだろう。

別のチームが開発したマリオオデッセイとゼルダの伝説が同じ方向性を持ったゲームになったのも偶然ではない。方向性と手法が確立し、社内に共有されている証だ。

今のSwitchは成功しているが、ゲーム業界は急激に変化する。変化が起きた時に今の手法ではなく、社内で議論を重ね最適な方法を見出し、臨機応変に変わることが任天堂に求められる。