ハードウェア発表がなかった理由
WWDC 2018のキーノートは、4大OSの次期バージョンの説明のみで終わり新しいハードウェアの発表はなかった。開発者向けのイベントであるWWDCとしては原点回帰といえる。iPhone SE2の登場、MacBookシリーズのアップデートを筆者も予想したが、みごと外れた。
ハードウェアを発表しなかった理由をつければ、iOSデバイスの成長でMacの重要性が低下し、Macのモデルチェンジが緩やかになったということだろう。噂のiPhone SE2やその他のプロダクトは開発者向けイベントで発表する意味はなく、別のイベントを用意したほうが効果的とAppleは判断したと思われる。
手堅い正常進化
では、発表になった次期OSはどうだったのだろう。全体を見ると、「手堅い正常進化」だった印象を受ける。Appleが新しいビジョンを見せたというよりは、ユーザーからの不満や要望に答えた機能の拡張が多かった。
特にAppleの売上を支えるiOSはその傾向が強い。世界でも最もスマートフォンで利益を上げているAppleが冒険する必要はないが、フラットデザインを採用したiOS 7からすでに5年が経過している。そろそろ変化の年だったが、Appleが選択したのは現状からのわずかな進化だった。
iOSの変更点を見てみよう。
iOSの主な進化
- 高速化
- 新しいAR環境
- 自分のAnimojiが作れる「Memoji」
- 強化した写真アプリ
- カスタマイズできるSiri
- iPhoneの使いすぎ防止
- 最大32名でFacetime
高速化
iOS 12はアプリ起動を40%、キーボードの表示を50%、カメラ起動は70%を速くなるそうだ。もちろん新しいiPhoneではなく、今使っているiPhoneの話だ。iOS 12は、iOS 11が使える全てのiPhoneがアップデート対象だ。
バッテリー問題で旧モデルを切り捨てていると非難されたAppleの罪滅ぼし? にも見える大盤振る舞いだ。
AR環境
複数のデバイスでひとつのAR環境を操作するプログラムを開発できる「ARKit2」を搭載。レゴブロックをiPadでのぞくと動くレゴたちが見えるデモを行っていた。昨年は「流行りだから、うちらもやっていますよ」程度のアピールだったが、今年のAppleは本気だ。
Apple純正の定規アプリ「Measure」を発表。筆者も「事前予想」で指摘したようにAppleが純正アプリをだすことで、ユーザーは安心してARに触れることができる。自分でAR対応アプリを探して、試すユーザーは多数派ではないのだから。
Memoji
「メモジ」ではなく「Me モジ」。任天堂のMiiによく似ているが、Memojiはカメラに写る自分に合わせて表情を変えることができる。実際の映像に組み合わせることができるので、こちらもわかりやすいAR技術の紹介にもなっている。
写真アプリ
検索機能などを強化。場所やイベントから写真を検索できる。Googleフォトの後追いだ。機能が追いついても、Googleは写真のストレージ料金は原則無料だ。有料のiCloudで対抗できる判断なのだろうか。
Siri
スケジュールや過去の行動から、次に行うべき行動をSiriが提案してくれる。Apple Watchの新しい文字盤「Siri」の進化系にみえる。
「ショートカット」機能がつき、複数のワードでの命令が可能になった。こちらはGoogle Home、Alexaではすでに実現している機能。音声コマンドではメニューの階層をたどるよりも、一言で命令した方が効率良いので、必要な機能だ。
使いすぎ防止
睡眠時に通知を表示しない機能や通知をまとめる機能など、スマートフォン依存になっているユーザーの使いすぎを防止する機能が増えた。
スマートフォン漬けが社会問題になりつつあり、色々な団体から要望が上がっていた。
子供のスマートフォン利用を制限することもできるようになった。
複数人でのFacetime
今までできなかったのを知らなかった。電話会議にも使える? 話す人の映像を自動でズームするところなどAppleのセンスを感じる。
地続きの景色を見せるiOS
見てきたように、iOS 12はユーザーの要望を取り入れた機能が多い。一方で、ARや写真アプリのようにGoogleなどのライバルに追いつくための変更も随所に見える。
そつがないアップデートだが、このアップデートから見えるのは現在と地続きのちょっと先の景色で、新しい世界は見えてこない。
噂になっていたNFC開放もなかった(学校での入退室にiPhoneを使う説明はあったが、全面的なNFC開放ではないようだ)。
ハードウェアを絡めた斬新な機能は次期iPhoneと一緒に発表されるのだろうか。
watchOS 5は、こちら。
WWDC2018直前予想の答え合わせは、こちら。
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