邪悪になるな
「Don't Be Evil」(邪悪になるな)といえば、有名なGoogleのスローガンだ。今は「Do the right thing」(正しくしよう)に変わったそうだが、世界をより良くするために活動するGoogleの方針は変っていない。
世界を変えるIT
「ITは世界を良くする」カルフォルニアで生まれた若きIT企業の経営者たちは、旧世界の悪弊を打破して、人がもっと生きやすく、平等で公平な世界をITで作れると信じている。
FacebookのザッカーバーグCEO、Amazonのジェフ・ベゾスCEOも、同じように世界を変えようと思っている。ザッカーバーグはアメリカ大統領選挙に出る噂があるぐらいだ(ITではないが、西海岸で成長したスターバックスの創業者ハワード・シェルツ会長も大統領選を目指している噂がある)。
無料サービスの代償
インターネットは多くの人に成功の機会を与えた。無料で多くの情報を入手でき、自分の主張を世界に発信できるようになった。
たしかに世界は変わった。ただ代償もあった。サービスと引き換えに人は個人情報を企業へ渡すことになった。全世界の人々から集めた個人情報を使ってGoogleとFacebookは顧客の嗜好にあったカスタマイズされた広告を表示し、商売にした。
ザッカーバーグは政府の公聴会で「広告は、人々のために無料でサービスを提供する最適な方法だ」と証言した。ザッカーバーグは真剣にそう考えているに違いない。今のやり方は、完璧ではないが少なくても今よりは世界をマシにすると。
独善と言えば、独善だ。情報漏えい事件をきっかけに、改善策を施すとザッカーバーグは約束した。
すべての中心はお客様
先日のAppleの開発者イベントWWDC2018の冒頭でティム・クックCEOが「Customer at the Center of Everything」(全ての中心にお客様)と説明した。お客様は人と解してもいい。
クックが今回このスライドを持ち出したのは、GoogleとFacebookへの強烈な皮肉だ。WWDCの中で「Appleは個人情報で商売しない」と宣言し、個人情報保護を強化する取り組みを説明した。
そのAppleもスティーブ・ジョブズの頃は「独善」だった。ジョブズの天才的な発想だけが善で、理解しない客とライバルを容赦なくけなした。
クックの時代になり、Appleは変わった。顧客の意見を取り入れて製品を改善してきた。今回のWWDCはハードウェアの発表もなく、地味だったという意見が多いが、顧客や市場が要望に基づいたOSの改善が目立った。
顧客が望むかどうかわからない突飛なアイディアを披露するのではなく、顧客が望む地道な改善をAppleは選んだ。古い機種でも快適に動作できるようにし、5年前の製品でもアップデート対象とした。
一方で個人情報を守るあまり、音声認識などビッグデータを用いるカテゴリーでAppleはGoogleやAmazonの後塵を拝している。
どちらかが一方的に善で、どちらかが悪ということはない。今後、双方のせめぎあいの中で、最適な解に落ち着くのだろう。それは、きっと今よりも正しい世界に違いないと筆者は思う。