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「第12回ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作の「夏のピルグリム」を7月18日に刊行

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Abemaトーナメントで藤井聡太七段が強い理由

AbemaTVトーナメントで無敗

Abema TVが主催する『AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治』(以下、Abemaトーナメント)で藤井聡太七段が無類の強さを発揮している。これまでのところ、一人だけ6戦6勝無敗で、準決勝へ進んでいる。

藤井七段は、今年タイトルを取れるぐらいの活躍をしていたが、竜王戦の決勝トーナメントで敗退、王座戦でも挑戦者決定トーナメントで破れて、今年のタイトル獲得はなくなった。

Abemaトーナメントでは圧倒的に強いのに、他の棋戦ではどうして負けたのか。もちろんプロ棋士同士の勝負なので、勝つこともあれば負けることもあるのは当然だ。タイトル戦で負けたから弱いわけでも、Abemaトーナメントで勝ったから強いわけでもない。

ただ、同じ相手である増田六段に竜王戦で負けたが、Abemaトーナメントでは2局とも完勝した。

持ち時間3時間の棋戦が苦手

勝敗をわけた理由の一つに持ち時間の差があると思う。将棋は棋戦によって持ち時間が異なる。竜王戦と王座戦の持ち時間は5時間。今年藤井七段が羽生竜王などを倒して優勝した朝日杯オープンは40分だ。

Abemaトーナメントは、持ち時間5分で開始し、1手指すごとに5秒が加算されるフィッシャールールを採用している。5分というのはすべての棋戦の中で極端に短い(Abamaトーナメントは非公式戦)。

藤井七段の持ち時間別勝敗表だ。1時間以下は8割以上の勝率なのに、持ち時間3時間だけ勝率が8割を切っている。6時間以上は過去負け無し。

持ち時間 対局数 勝ち数 負け数 勝率
1時間以下 36 30 6 83%
3時間 14 10 4 71%
4~5時間 37 32 5 86%
6時間 13 13 0 100%
合計 100 85 15 85%

これはどういうことなんだろう。藤井七段といえば、 詰将棋四連覇を達成したことでもわかるとおり、終盤の読みの速さは棋界でもトップクラスだ。読む時間が長ければ、相当深く読んで最善手を見つけることができている。6時間あれば、多くの筋を読み切ることができるので、藤井七段は全勝を維持することができる。

一時間以下、特に今回の4分しか持ち時間がないAbemaトーナメントで強い理由は、他の棋士より速く手が読めるからだろう。持ち時間4分で一手5秒追加という超速指しルールだと、一瞬で読んで指さないといけない。通常の棋士が第一感で指すところを藤井七段は複数の候補手を短時間で読んでいる可能性が高い。だから無敗なのだ。

将棋は対戦ゲーム。相対的に相手より強ければ勝利を手にできる。持ち時間が短い棋戦では藤井七段の読みの速さが他の棋士を上回っているから勝利を重ねることができている。

一方、持ち時間3時間の棋戦で勝率が低いのは(勝率7割でも十分高いのですけどね)、読み抜く時間が足りないからだろう。将棋は変化が多く、すべての筋を読むのは不可能だ(局面の種類は宇宙の原子の数より多いという)。

「大局観」と「枝切り」

時間内で勝つためには、可能性が低い筋の読みを省略する「枝切り」を行う必要がある。そうしないと、その先の筋まで読み出すと分岐の数だけ時間が膨大にかかる。

ところが、藤井七段は読みが早いので、より多くの筋を読もうとするが、3時間では多くの筋を読みきれず、時間切れで追い詰められて悪手を指してしまっていると思われる。

一時は、将棋というゲームを破壊しかねないと危惧されるほど強かった藤井七段がタイトルを取れないことで、最強棋士クラスにはまだ達していないという話もでてきている。

たしかに、現状はまだ”最強”ではないかもしれないが、将棋の全体の形勢を判断する大局観をさらに強め、的確な「枝切り」を行えば、苦手な3時間棋戦も克服し、最強クラスに近づけるだけの才能を持っていると思う。

www.kantakayama.com