Apple TV+スタート
Appleの動画配信サービス「Apple TV+」が11月1日にスタートした。NetflixやAmazon Prime Videoなど強力なライバルがすでに存在する市場に、どうして今更AppleはApple TV+を開始したのか考察します。
微妙な価格設定とコンテンツ
月額1ヶ月600円、Apple製デバイスを購入したら一年間無料、Apple Musicの学生プラン加入者も無料だ。
Netflixのスタンダード(HD)は月額1,200円、Huleの月額1,026円と比べると、半額に近い価格設定で、Amazon Prime VideoとdTVの月額500円に近い。Apple製デバイスを買えば一年間無料になるので、価格競争力は強い。
ただ、内容は大きく異なる。Apple TV+で視聴できるのは、近日上映予定も含めて11本、多数のオリジナル映画とテレビ番組や他社の映画も視聴できるNetflixやAmazon Prime Videoとは比べることができないほど、本数は貧弱だ。
現時点でのApple TV+のコンテンツラインナップは、NetflixやAmazon Prime Videoとは勝負にならない。
特定チャンネルという選択
NetflixやAmazon Prime Videoに取って代わることができるとは、Appleも考えていないだろう。通販顧客の囲い込み手段であるために安価なAmazon Primeは別とすると、ド動画配信サービス市場ではNetflixが強い。特に米国ではケーブルテレビの顧客を奪って、急成長してきた。
Apple TV+は、Appleが制作した良質なドラマコンテンツを愉しむチャンネルだと考えると理解しやすい。Netflixの”付け足し”として、Apple TV+を選んでもらう。それが現時点のAppleの戦略だろう。いわば、Appleドラマチャンネルだ。
チャンネル戦略をとっているのはAppleだけではない、ディズニー社も同様だ。アメリカではDisney+、日本ではDisney DELUXEの名称で、自社の動画配信サービスを提供している。Disney DELUXEは月額700円で、Apple TV+に近い価格設定だ。
コンテンツ数はAppleよりは多いが、Netflixとは比較にならない。自社作品だけだから、ジャンルも偏る。ディズニーもNetflixを打ち負かすのではなく、プラスアルファー市場を目指している。
付け足しの先にあるもの
Apple TV+がひとつのチャンネルとして浸透したあと、Appleはどうするつもりなのだろう。1チャンネルの運営では収益に限界がある。
次に考えているのは、チャンネルの多角化だろう。Apple TV内で、他のチャンネルと契約できるようにする。そうすることで、ユーザーはテレビのチャンネルを切り替えるように、同じインターフェイスで他のチャンネルを愉しむことができる。支払いも、Appleの課金システムが利用できる。他のチャンネル契約の呼び水として、自社制作のドラマが鑑賞できるApple TV+がある。
気になるのは、Amazonがすでに同じサービスをはじめていることだ。Amazon Prime会員は、Amazon Prime Videoは無料だが、有料のチャンネルも選んで契約できる。契約したチャンネルはAmazon Prime Video内で番組を検索できる。日本でも今年から、地方局のチャンネルなど様々なチャンネルをAmazon Prime内で契約し視聴できるようになっている。
こうやって見ていくと、Apple TV+のライバルはNetflixではなく、Amazon Prime Videoだとわかる。
Amazonに勝つためには、今後Apple TV+のユーザーを増やし、そのユーザーに他社のチャンネルを契約してもらう必要がある。コンテンツ制作には莫大な資金と優秀なクリエイターが必要だ。ハードウェアで稼いだ資金を投入し、Appleブランドで集めたクリエイターに良質なコンテンツを制作してもらうのがAppleの手法だ。
この体制を長期的に行っていけるかどうかがAppleの課題となると思う。