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EUによるエンジン車の販売継続は日本にとって福音?

EUの方針転換

EUは2035年以降も条件付きでエンジン車の新車販売を許可すると発表した。今まではカーボンニュートラルを実現するために、ハイブリットを含むすべてのエンジン車を廃止しEVへ転換するとしていた。

エンジン車存続の「条件」とは、合成燃料の使用である。合成燃料とは、e-fuelというCO2と水素から人工的に製造する燃料のことだ(他にもバイオ燃料という手段もある)。e-fuel簡単に言うと、電気分解を使ってCOと水素を作り出し、生成する液体燃料のことだ。液体なので水素より扱いやすく、既存のエンジン車の技術を流用することができる。

EV一辺倒だったEUがどうして方針変換したのか、日本へに影響を考えてみます。

ドイツの反発

方針転換したのは、自動車業界を抱えるドイツが反発したからだ。カーボンニュートラルに熱心なフランスの主導でEVへの転換が進められてきたが、VWやBMWを抱えるドイツはここにきて態度を硬化してきた。ドイツにとって自動車産業は国を支える主力産業だ。エンジン車がなくなり、EVになれば過去の技術資産は使えず、EVは部品点数が少ないので部品メーカーを含めて人員が余る。

そんなことは自明なはずだが、それに加えて、ウクライナ情勢によるエネルギー価格の上昇が起きた。原発廃止を宣言したドイツは発電をロシアからの天然ガスに頼っていたが、戦争により供給がストップした。原発大国のフランスよりも深刻な影響を受けたドイツは、EVが増えることによる電力需要の増加に耐えられないと判断したのだろう。

ルールを動かすEU

「ハイブリットが強い日本車潰しのためにEVへの転換をEUが主導した」と日本では言われていた。確かに、EUの政策は、自然保護だけではない側面はある。ただし、EVになれば、現在世界でシェアを拡大しつつある中国企業が覇権を握る可能性もある。それはEUにとって面白くないはずだ。

今回のEUの方針転換には、そういった市場の動向も影響していると思われる。

莫大な電気を使うe-fuel

e-fuelにも課題はある。水素燃料と同様に、水素とCOを製造するのに膨大な電気が必要なのだ。電気を生成するには火力や原子力が必要になる。地球温暖化ガスを減らすのに天然ガスや石油を燃やしてしまっては意味がないので、ポルシェは風が強いチリに風力発電所とe-fuelの工場を建設した。今後、世界の需要に応えるだけのe-fuelをどこまで生成できるかが一つの鍵となる。

トヨタに先見の明があった?

トヨタはEV一辺倒の政策に警鐘を鳴らし続けていた。EVに転換することで、国内の労働市場は悪化し、資源がない日本では電力不足に陥ると主張し、EVと並行して水素自動車、燃料電池自動車の開発を進めてきた。

そんなトヨタからしたら、今回のEUの決定は「ほら、みたことか」ということになるのだろうが、事はそう簡単ではない。ヨーロッパだけが自動車を製造しているわけではないからだ。

EVの世界シェア1位はアメリカのテスラだ。2位は中国のBYD、3位はアメリカのGM、4位にようやくドイツのVW、5位はまた中国の浙江吉利控股集団だ。ハイブリットなど省エネ車の開発では遅れをとったアメリカ、他国のメーカーが保有するガソリン車のパテントに縛られたくない中国は、これまでと同様にEV開発に力を入れ続けるだろう。

原発を保有する米中ともEV普及にはさほど問題がない。環境も大事だが、ユーザーが望むのは安くて便利な自動車だ。内燃機関が不要で部品点数が少ないEVはバッテリー性能が向上すれば、エンジン車に迫る性能を得る。米中のような功利主義を幅を利かす社会では、EVの需要が衰えるのは想定しにくい。

今回のEUの方針転換に合わせて、米中がEV普及の旗を下ろすとは思えない。全世界の自動車販売台数の半数を米中が占めている。EU全体でも10%以下の販売シェアしかない。

自動車産業においては、EUよりも米中の意向が大きく影響する。日本ではいつまで経ってもEVのシェアは増えていかないが、その間にも米中を中心とした世界に取り残される危険性は大きい。

とはいえ、このまま米中主導でEV車が全世界に広まるかどうかは不透明な点もある。EVは社会システムでもある。全国に電気スタンドを設置し、増加する電力需要に応えるインフラも必要だ。発展途上国や国土が広い国の場合、それだけのインフラを整えるのは並大抵のことではない。

日本の自動車産業は、世界の動向を見つつも、今よりもEV開発に本気を出していかないと、IT産業のように米中に打ち負かされてしまう。

IT関連のブログをほぼ毎日更新していますが、本業は高山環(たかやま かん)というペンネームで小説を書いています。
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