異例の3期目
トヨタ自動車の豊田章男社長が、日本自動車工業会(自工会)会長職に就任んして3期目に入る。自工会の会長職は、今までトヨタ・日産・ホンダの持ち回り制だったので、同じ人物・会社が2期連続することもなかったので、3期というのは相当に異例だ。
今まで持ち回りだったのに、トヨタが独占しているのは、近年のトヨタのシェアと時価総額が他の自動車メーカーを圧倒しているからだ。
2019年の世界シェアトップはトヨタで約1,097万台、日産・ルノー・三菱の合計で約1,015万台、ホンダが第8位で517万台と単体ではトヨタが圧倒している。
国内でもトヨタのシェアは50%を超えている。トヨタが本気でシェアを取りに行けば、国内市場のシェアをさらに拡大できるが、他社メーカーと協調するためにこの程度で抑えているともいわれる。
今、日本の自動車メーカーは、危機に瀕しているといってよい。カーボンゼロを旗印にしたEV(電気自動車)の攻勢を受けている。ところが、日本の自動車メーカーのEVのシェアは0.7%。テスラだけではなく、フォルクスワーゲンやBMWなどの欧州メーカーにも負けている。
この難局を乗り切るために、国内自動車メーカーで強大な力を持つトヨタが長期間リーダーシップを執ることになった。
果たして、トヨタ会長のもとで日本自動車業界は復活できるのか。
EV一辺倒ではないトヨタ
日本自動車工業会は日本の自動車メーカーの業界団体だが、参加企業は一枚岩ではない。
本来なら日本企業一丸となってEV開発に向かわないといけないのだが、各社によってEVに対する姿勢が違う。ホンダは2040年までにEVとFCVのみだけ販売すると公言しているが、トヨタはEV一辺倒ではない。豊田社長は、EVだけではなく水素自動車の開発を進めている。EVは過去の自動車開発のノウハウが使えず、またパーツもモジュール化されているので、現行の自動車部品メーカーは衰退してしまうことを豊田社長は懸念している。
また、ガソリンエンジンを廃してEVだけになれば、今の国内の電力事情ではカバーできないとも主張している。
豊田社長は、EVだけに傾斜しがちな政府に色々と警鐘を鳴らしているが、内燃機関エンジンへのノスタルジーがあるように思う。確かに内燃機関エンジンの振動と音、ギアチェンジによる運転は楽しい。
だが、欧米中国はすでにEVの開発普及に注力している。電気スタンドの普及を進め、国を挙げてEVを今後のスタンダードにするように取り組んでいる。
内燃機関エンジンの自動車よりEVは部品点数が少ない。水素自動車を普及させても、EVよりもコストが下がる保証はない。
EVだけではなく水素自動車の開発を進める豊田社長が自工会会長として今後もリーダーシップを発揮することになったのだ。
今でも他国に比べて大幅に遅れている日本のEV開発が、さらに遅れを取ることになってしま話ないだろうか。
自動車産業はIT産業の二の舞になる?
日本のIT産業は、過去の成功体験に固執することで世界から遅れをとってしまい、今では過去の栄華は消え去ってしまった。パソコンは国内の規格で開発しているうちにIBM-PC互換機の直販モデルに敗北した。過去のフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)に固執する間にiPhoneとAndroidのスマートフォンに負けてしまった。
自動車産業も過去の内燃機関エンジンの維持する方向で努力していると、IT産業の二の舞になりかねない。
部品メーカーの雇用など難しい問題はいくつもあるが、世界はEVを次世代自動車とすでに定めている。電力はどうするのか? 発電に化石燃料を使うのではカーボンゼロにならないのでは? などの疑念はあるが、これは理屈ではなく、政治の世界の領域の話だ。ハイブリッドではトヨタに勝てない欧州自動車メーカーがカーボンゼロを名目にしてEVしか走れない方向で進めているのだ。そこに、既存メーカーの特許でがんじがらめにされている内燃機関では勝てない中国メーカーが参入し、AppleやMicrosoftのようなアメリカ流経営でテスラが牽引してきたのがEVの現状だ。どのメーカーもどの国も日本のトヨタを潰そうと躍起になっている。
すでに遅れているEVではなく水素自動車の開発を進めた方が、日本のメーカーは生き残るという見方もあるが、今から欧米の自家用車で水素自動車が普及するのは不可能に近い。水素スタンドが世界全域に敷設されなければ、水素自動車を利用することはできない。水素スタンドは電気スタンドと違い設置すれば終わりではない。水素を運搬し蓄積しないとならない(だから今のようにガソリンスタンドが生き残れるのだけど)。
ITではNECがPC向け燃料電池の開発に取り組んできたが、全く普及しなかった。理由は色々あるが、面倒なことはみんな嫌なのだ。燃料電池を買って取り替えるよりも自宅の電源に繋げた方が楽ちんだ。
自動車も同様で、バッテリーの駆動時間など色々な課題はあっても、自宅でも充電できるEVは便利だ。
自家用車ではなく、トラックなど営業運搬用では水素自動車が普及する余地はあるが、この分野も中国のEVメーカーなどがすでに参入を始めている。
日本のメーカーもEV開発へ早めに集中しないと、本当に手遅れになりかねない。