ループするITデバイス
僕らは3回ループする。何のことかと言うとITデバイスの話だ。新しいITデバイスが登場すると、最初は使いものにならないほど低性能だが、徐々に高性能化し、多くの人が利用するようになる。やがて性能が行き詰まり、目新しい機能が出てこなくなり、デバイスはコモディティ化する。過去多くのデバイスが同じルートを辿ってきた。
最初のループ:パソコン
最初のループはパソコンだ。Windows 3.1が登場したの1991年。今のWindows 10にも通ずるウィンドウのGUI、複数のソフトウェアを同時に動作できるマルチタスク機能は、当時としては画期的だった。だが、Windows 3.1はMS-DOSのいわばシェルみたいなものでもあったので、MS-DOSの制限を受け続けた。640KBのコンベンショナルメモリの制約はプログラマを悩ませた。複数のソフトウェアを起動すると動作しないで落ちることも多かった。
1995年のWindows 95登場をきっかけにして、Windowsとパソコンは爆発的に普及した。様々な機能が追加され、CPU・GPUも高性能化し、当初とは考えられないぐらい高密度のグラフィックを高速で表示できるようになった。
ただ、2005年辺りからパソコンの出荷台数は鈍化する。パソコンが多くの企業と家庭に行き渡ると、新規購入需要が減った。パソコンの高性能化は止まらなかったが、その性能を活かす画期的なソフトウェアが生まれず、買い替え需要も伸びなくなった。
2回目のループ:スマートフォン
2回目のループはスマートフォンだ。スマートフォンのマーケットを創ったiPhoneも初代iPhone、iPhone 3Gは日常的に使うには困難なスペックだった。 特にOSがマルチランゲージに最適化されておらず、日本語変換するだけでメモリを圧迫しアプリが落ちることもあった。初期のiPhoneで人気だったアプリはメモリを解放するアプリだった。今では考えられない。
モデルチェンジを繰り返す度に内蔵メモリが増えて、OSであるOS Xも最適化が進んできた。Androidと競争しながら、毎年新しい機能を追加してきたが、ここ数年は出荷台数が伸びなくなってきた。
目新しい機能が減り、ミニマルデザインを追求するAppleデザインもフルディスプレイを実現したiPhone Xでひとつの究極点に達した。
3回目のループ:ウェアラブルデバイス / スマートスピーカー
3回目のループはなんだろう。Apple Watchに代表されるウェラブルデバイスか、Alexaなどのスマートスピーカーか。Apple Watchも初代は性能が低く、アプリがまともに動作しなかった。スマートスピーカーも、音声アシスタントの先駆けであるSiriは認識精度も低く、できることも限られていた。
Apple Watchもスマートスピーカーも、ここにきて日常で使える性能になってきた。
ここまで両デバイスの歩んできた道は、パソコンとスマートフォンの道のりとよく似ている。違う点は、Apple Watchもスマートスピーカーも過去のデバイスを駆逐するのではなく、追加されたデバイスだということだ。
パソコンが登場し、オフコンと呼ばれた事務処理に特化したコンピューターは消滅した。スマートフォンの登場で、パソコンを代替する機会も増えた。
Apple Watchは初代の頃と比べて単体で多くのことができるようになった。セルラー機能を搭載し、この秋に登場するwatchOS 6ではApple Watch単体でOSのアップデート、アプリのインストールができるようになる。しかし、Apple Watchを購入したらiPhoneが不要になるには、まだ時間がかかりそうだ。
スマートスピーカーを購入しても、スマートフォンは必要だ、今のところは。ディスプレイ付きのスマートスピーカーが登場して、音声だけではなく目視で確認できるようなった。音声でより多くの作業ができるようになれば、スマートフォンで行っているいくつかのことがスマートスピーカーで代替できるようになるかもしれない。それでも、「入力」作業でスマートスピーカーがパソコンやスマートフォンに勝るには、かあなりの時間がかかるだろうし、そこまで至らない可能性も高い。音声での入力は周りに聞こえてしまうので、使える場所が限定される。
その次のループもあるのか
Windows 95から数えると12年後にiPhoneが登場し、iPhoneが生まれて今年で13年になる。Apple Watchは今年で5年目を迎え、Alexa登場から4年が経つ。あと8年ぐらいすると、また新しいデバイスが登場するのかもしれない。マウスとキーボードで両手を使って操作するパソコン、指で操作するスマートフォン、音声で操作するスマートスピーカー。次のデバイスは思念だろうか。