4兆円でTOB
NTTがNTTドコモを4兆円超でTOB(株式公開買い付け)をして完全子会社化を発表した。もともとNTTドコモはNTTの子会社なのに4兆円を費やしてどうして完全子会社にしたかったのだろう。
理由と背景を考えてみます。
元々は同じ会社
大昔、NTTは電電公社と呼ばれ国が経営する企業だった。1985年にNTTとして民営化されたのち1991年に移動体通信事業だけ分離して、NTTドコモが誕生した。
その後、ドコモは成長する携帯電話業界を主導し、現在ではNTTグループの営業利益の七割を稼ぐまでになった。どうしてグループ会社であるドコモを完全子会社にする必要があるのか。
GAFAなどの巨大企業と競争していくためには、一つの企業として一丸となって対処しないといけないというのがNTTの説明だった。
その背景にはドコモとの社風の違いがある。成長産業である携帯電話事業を牽引してきたドコモは、NTT本体よりも比較的自由な社風だった。NTT本体に負けないようにと新しいサービスに挑戦し、前述の通りグループ全体の多くの利益を稼ぐまでになった。
NTT本体からしたら、ドコモを完全にコントロールしたいと思うのは理解できる。
NTTは買収の理由に5Gへの対応も挙げている。高速大容量通信が可能な5Gを全国に展開するには多額のコストがかかる。ドコモだけではなく、NTT全社で取り組みたいところだ。5G回線がモバイルと言ってもアンテナまでの足元の回線は光ケーブルなので、そこはNTTの管轄だ。モバイルとケーブル回線が一体化して取り組むことでコストを削減できる。
さらに家庭向けなどのいわゆるラストワンマイルの回線は、光ケーブルではなく5G回線で代替することも想定されている。今でも光回線とモバイル回線を合わせて契約したセット割はあるが、全て5Gでカバーする新しいプランも考えられる。当然光ケーブルの売り上げは減少するわけなので、別会社だと利益相反する事業を押し進めるのは難しいことが想像できる。完全子会社化すれば、グループ全体の利益を考えた経営判断が今よりも容易に行える。
悲願だった一体化
NTTが分割民営化されたのは、巨大なNTTが存在しては他社と競争にならないからだった。NTTを分割民営化することで価格破壊を起こすのが国の目的だった。
それから時を経てグローバル企業が日本にも進出してきて、NTTからすると「国内で競争している場合ではない」という思いが強く、グループの一体化はかねてよりの悲願だった。
だが、今回のドコモの完全子会社化は、大昔の分割民営化の精神に反する。現に、KDDとソフトバンクはNTTの寡占化が起こるのではと懸念を表明している。
NTTの話では、監督官庁である総務省にも事前に話を通しており、公取も買収を妨げる様子はない。
総務省とドコモというと、携帯電話料金の値下げの話題がホットだ。9月に発足した菅政権は「携帯電話料金の値下げ」を政治課題に挙げている。
ひょっとすると、総務省はドコモの完全子会社化を認める代わりに、携帯電話料金の値下げをNTTに承諾させたのかもしれない。
携帯電話料金を下げるために、携帯電話本体とのセット契約を禁止するなどの措置を行なってきたが、総務省(菅総理?)の期待通りに料金は下がっていない。それは長期契約をなくしても受け皿がなければ、ユーザーは移行しないし、値下げ競争が起こらないからだ。
その受け皿となるはずだったのが楽天モバイルだ。ところが、通信網拡大の遅れなどの不手際により楽天モバイルは何度も行政指導を受けている状態で、ユーザー数も思うように増えていない。
競争による値下げを諦めて、完全子会社化の承認を餌にNTTに携帯電話料金の値下げを確約したのではと勘ぐりたくなる。
これが事実だとすると、あおりを食うのは楽天だ。携帯電話料金値下げのために総務省は楽天に回線付与などのさまざまな便宜をはかってきたが、ここにきて見限られてしまった印象がある。ドコモが大幅値下げを実施すれば、ブランド力と通信網の差で楽天は太刀打ちできなくなる可能性が高い。
そんな総務省とNTTの動きに危機感を抱いたのか、楽天は5Gを4Gと同じ2,980円で提供すると発表した。4Gの自社回線も全国に敷設できない中での5Gの開始は明らかに時期尚早だし、4Gと同等料金というのは相当アグレッシブな価格設定だ。それでも強行した背景にはNTTによるドコモの完全子会社化への危機感があるのではと推察する。