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楽天モバイルが日本の携帯電話業界に必要なのか考える

楽天モバイルへの批判

楽天モバイルに批判が集まっている。1GB未満無料のプランを撤廃したことで批判を浴びた楽天モバイルが、総務省のタスフォースにて、他のキャリアにプラチナバンドを無償で割譲するように主張している。前例がない主張なので、「横暴だ」「4社もキャリアが不要」という意見も出ている。

プラチナバンドがないと公平な競争ができない楽天モバイルは言っているが、そもそもそこまでして第4の携帯キャリアを育てる必要があるのか。

日本に楽天モバイルが必要なのか考えてみます。

日本の携帯電話を変えるために誕生した楽天モバイル

2017年12月に楽天はモバイル事業を開始すると発表した。「高すぎる日本の携帯電話を民主化する」と楽天モバイルは日本第4のMNOとして華々しくサービスをスタートさせた。

確かに当時の携帯電話料金は高かった。携帯電話3社の電話料金は横並びで、安い料金を求めるユーザーは、速度が遅いMVNOしか選択肢がなかった。UQモバイルなどのセカンドキャリアはあったが、MVNOほど安くはなく、中途半端な存在だった。

そこに楽天モバイルが、1年間無料、無制限2,980円の破格のプランを打ち出してきた。既存の携帯キャリは、無制限に近いプランだと5,000円以上もしたので、楽天モバイルのプランは驚きを持って迎えられたし、当初は日本の携帯電話料金を安くしてくれると期待が大きかった。

潮目が変わったのは楽天モバイルがサービスを開始した後だ。2020年に誕生した菅政権は「日本の携帯電話料金は高すぎる」と言い出し、携帯電話各社に圧力をかけてきた。

当初は、auとSoftBankはセカンドキャリアであるUQモバイルとY!mobileの値下げでお茶を濁そうとしたが、政権はメインキャリアでの値下げを要求した。

そこでNTTドコモは2021年3月にahamoを導入した。20GB2,980円のプランは、今までのプランより半額近く安かった。

同じタイミングで1年間無料の特典が切れるユーザーが増える楽天モバイルの対応に注目が集まった。いきなり有料にしたら、多くのユーザーが楽天を離れるのが目に見えていたからだ。

楽天モバイルは、今までのユーザーを離さないために、1GB未満無料の新プランを発表した。楽天モバイルをサブキャリアをとして使っているユーザーが多かったので、1GB無料で使用容量に応じて段階的に値上げしていくプランはユーザーに好評だった。

ところが、多くのユーザーが無料のままでは売り上げは伸びず、莫大な設備投資もあり、楽天モバイルは巨額な赤字を計上することになった。楽天本体の利益でも赤字をカバーできず、楽天全体の経営を揺るがしかねない事態だ。

赤字を解消するために、2022年2月に楽天モバイルは1GB未満無料のプランの廃止を宣言した。新規ユーザーだけではなく、既存ユーザーも開始から1年半でプランが強制的に変更されることに多くの反発が起きた。

その批判も収まらない中で、楽天モバイルはプラチナバンドを強く要求し始めた。

格安なのか?

楽天モバイルは携帯電話料金を安くすると宣言してサービスを開始したが、現在でも本当に安いのか。現状では楽天モバイルが「安い」のは特定のユーザーに限られる。

最もユーザーが多いといわれる3GB未満の使用量では、LINEMOや他のキャリアの方が安い。楽天モバイルが安いのは無制限の場合だ。無制限2,980円は確かに安い。3大キャリアのahamoやLINEMOにはそのようなプランは見当たらない。ただ、20GBならpovoが2,728円と、楽天モバイルより安い。20GB以上使うユーザーのみ楽天モバイルは価格面で他のキャリアプランよりお得になる。

ただ、現在の楽天モバイルの通信品質は、大手3社より劣る。建物内や地方へ行くと途端に繋がらなくなる。これでは安くても、メインキャリアとして使うには心もとない。

楽天もそれを認めているから、強引とも思える手段でプラチナバンドを手に入れようとしているのだ。

MNOは4社必要なのか?

ahamoなどのサービスができたことで、楽天モバイルの価格優位性がほとんど失われてしまっている。それでも競争環境を公平にするため楽天モバイルはプラチナバンドを要求している。

当然、周波数帯が減る既存のキャリアのユーザーに迷惑がかかることになるのだが、そこまでして日本に4社目のキャリア(MNO)が必要なのかという疑問が当然湧いてくる。

世界を見ると、MNOが3社の国が多い。アメリカは、4社あったが、T-Mobileがスプリントを吸収合併し現在は3社しかない。広い国土を有するアメリカでも3社なのだ。

イギリスは世界でも珍しく4社体制だ。big4と呼ばれており、EE、O2、Vodafone、Threeの4社がシェアを分け合っている。ただ、EE、O2、Vodafoneは国際企業であり、Threeはどちらかというと格安キャリアの位置付けに近い。日本のように、国内企業が4社並ぶ先進国は多分ない。

参入企業が増えて競争が激しくなれば、料金は下がりサービスが向上するなど、ユーザーにとってメリットが大きくなる。

だが、楽天モバイルは実質値上げに踏み切り、他社は楽天モバイル対抗というより政府の要請で値下げをしている状況だ。

楽天は、楽天モバイルがあることで「楽天エコシステム」が強固になると言っているが、楽天を常時使っていないユーザーには関係がない話だ。

巨額の赤字を計上してる楽天モバイルに更なる値下げをする体力があるとは思えない。

そもそも、ユーザーがこれ以上の値下げを望んでいるのかも疑問がある。ahamoなどの格安プランが始まったが、移行したユーザーは全体の3割弱で、多くのユーザーは「割高な」現行プランを使い続けている。携帯電話は、若者だけではなく全国民が使用するものだ。安いからといって、移行作業をしたいユーザーばかりではない。

キャリア増えるのは歓迎だけど

キャリアが増えて競争が激しくなるのは賛成だ。楽天モバイルの経営が安定すれば、さらに斬新なプランを提供できるようになるかもしれない。

ただ、そのためには赤字を解消しないといけない。そのためには0円プランを解消しただけでは不十分で、さらなる有料ユーザーを集める必要がある。楽天モバイルのプランは3GB未満の小容量より、無制限に使用したいヘビーユーザーに強い。

メインキャリアとして多くのユーザーに使ってもらうためには、通信品質を高める必要があり、そのためにはプラチナバンドが必要という楽天の主張は理解できる。

問題は、プラチナバンドの移行が完了し、ユーザー数が増えるまで楽天モバイルが経営を維持できるかということだ。楽天グループの直近の決算は、マイナス1970億円の営業損失で、楽天モバイルの赤字をカバーできていない。今後設備投資は減り、有料ユーザーが増えることで赤字額は減ると楽天は言っているが、プラチナバンドの移行に費用がかかれば、設備投資額はむしろ増える可能性もある(楽天は移行元である現行キャリアが費用を負担すべきと主張しているが)。

無制限使用したいヘビーユーザー以外には価格優位性を失っている楽天モバイルにMNPしたいユーザーが今後どれだけいるかも不透明だ。

大手3社はプラチナバンドの移行には10年かかると言っている。さすがに10年はかかりすぎな気もするが、仮に10年かかるとしたら、そこまで楽天は赤字のまま携帯電話事業を継続できるのだろうか。

2日に楽天モバイルの元社員が不正取引で解雇されている。被害額は46億円に及ぶという報道もある。拙速に事業を行えば、こういった不正が起きる余地もそういった人材も抱えるリスクが生じる危険性が増える。

楽天モバイルが成功して、キャリアが切磋琢磨して競争するのは歓迎だ。そのためには、楽天モバイルがユーザーに信頼され魅力あるキャリアに変わらないといけない。

IT関連のブログをほぼ毎日更新していますが、本業は高山環(たかやま かん)というペンネームで小説を書いています。
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