混迷する第4のキャリア
第4のMNOを目指す楽天モバイルが混乱している。既存キャリアよりも格安で携帯電話事業サービスを始めると宣言して周波数を取得した楽天モバイルだが、当初の計画通りに進んでいない。10月の正式サービス開始が、約5,000名の特定ユーザーのみの試験的運用に変更になってしまった。基地局増設の遅れが原因と言われ、監督官庁の総務省から増設を急ぐように警告を受けている。
それ以外にも多くの問題を抱えており、楽天モバイルが既存のキャリアと比肩するサービスを数年内に提供できる可能性は低いと思う。
その理由を記します。
難しい格安設定
全国で正式サービスを開始するには、基地局の増設が必要だが、全国展開するには時間がかかるので、地方は特にauのローミングサービスに当面頼ることになる。
10月に開始した無料サービスを体験した人によると、屋内ではauのローミングサービスに切り替わる場面が多いそうだ。
この状態が続けば、auに支払うローミングサービス代金が膨大になる。ただでさえ、基地局増設にコストが掛かるのに、ローミングサービスのコストも併せると、最初描いていた劇的な価格設定は困難になる。
2019年10月現在、楽天モバイルは価格について詳細を発表していない。
困難な基地局増設
何度指導を受けても基地局増設が進まないのは、楽天が怠っているわけではなく、基地局を設置する場所が見つからないのも一因だ。
特に都市部では携帯電話の基地局を設ける場所がなくなってきている。めぼしいビルの屋上にはすでに基地局が設置されていて、新しいビルの建設計画が発表されるとキャリアから基地局増設の依頼がすぐに飛んでくるような状態だ。
今後、全国の都市部で基地局を設置する場所を確保するのは、更なる困難が予想される。
サービスの制限が多数
現時点で楽天モバイルを利用するのは、繋がりづらさ以外でも多くの制限がある。
まずはauのローミングサービスに切り替える時に通話が途切れる問題がある。2020年4月に解消する予定だが、現段階では不透明だ。
それ以外にも、SMSが使えない、iPhoneに未対応など、他のキャリアでは考えられない制限が多い。
ローミングサービスの切り替えによる通話切断とSMSの問題は楽天が提供する「楽天Link」で解消予定だが、そのアプリがいつ提供されるか決まっていない。
少ない周波数帯域
楽天モバイルは1.7GHz帯(上り下り20MHz)しか帯域を保持していない。これは既存キャリアよりも大きく見劣りする。例えばドコモは、700MHzから3.5GHzまで6種類の周波数帯域を3Gと4Gで利用している。
周波数帯域の数だけではなく、様々な周波数の帯域を保持するのが、繋がりやすいネットワーク構築には大事だ。高い周波数帯域なら直進性が強く、低い周波数帯域だとビルなどを回り込み広いエリアに浸透しやすくなる。両方を組み合わせて既存キャリアは世界でも稀に見る高品質なネットワークを構築している。
どんなに基地局を設置しても、楽天モバイルが高品質な既存キャリアに追いつくには既存の周波数帯域だけでは不可能だ。
サポートの貧弱さ
5,000名のテストユーザーでも電話が繋がらない不満が噴出していて、サポートに問い合わが殺到しているらしいが、Twitterを見るとこのサポートも繋がらないことが多いようだ。5,000名のうち約2割が開通していないと楽天は総務省に報告した。
楽天はサポートを増員すると言っているが、低価格を実現するためにはコストをおさえたい。既存キャリアは全国各地に店舗をもうけて、サポートも充実している。このレベルまで追いつくにはかなりの投資が必要だ。
低価格だから、サポートレベルは低いと言えればよいが、携帯電話はパソコンなどと違いITに詳しくないユーザーも利用する。サポートが貧弱だと、ブランドイメージの毀損につながる。
監督官庁との軋轢
楽天のMNOへの進出の背景には、携帯電話各社の競争を活性化させ携帯電話料金を下げたい総務省の思惑があると言われている。
仮想化などの新技術を採用した、不透明な部分が多い楽天の計画を承認し、周波数帯域を与えたのは、楽天を第4のキャリアにさせて、価格競争の起爆剤にするのが狙いだった。
だが、基地局増設の遅れで、総務省は何度も勧告を出している。楽天と総務省のなれあいという見方もできるが、携帯電話料金値下げができていない現状への総務省の苛立ちと見て取れる。
実際に、楽天モバイルのサービスが進んでいない現状を見て、既存キャリアは総務省の圧力があるにもかかわらず、ほとんど値下げを行っていない。当面、楽天モバイルと価格競争が起きないと予想しているのだろう。
味方だった総務省に見限られると、今後の周波数帯域の取得などが困難になってくる。
楽天の体制
様々な困難はあるが、企業が本気で取り組めば、ある程度は解消できるものもある。最初は赤字覚悟で投資をして、リソースをつぎ込めば、たとえばアプリの問題などは解消できるはずだ。
だが、現時点の楽天の動きを見ていると、期待薄だ。
PayPayを浸透させるためにソフトバンクグループは莫大な資金を投入し、大赤字を計上している。ソフトバンクのやり方がすべて好ましいとは思わないが、それぐらいの姿勢で行わないと既存キャリアからユーザーを獲得することはできないだろう。
過去の例からみると、楽天はそういった大胆な資金投資は行わない企業だ。例えば、2012年海外企業のkoboを買収して、電子書籍事業を鳴り物入りで開始したが、日本語書籍の登録に投資せず、青空文庫やギターの譜面を登録し、見た目の数だけを水増しする手法を取った。その結果、koboは国内のスタートダッシュに失敗し、Amazonの後塵を拝することになる。
新規事業に大胆な投資を行わないのは、収支にこだわる三木谷社長の意向が強いと言われる。楽天内では創業者である三木谷社長の権力が大きい。
今回のMNO事業への進出も、三木谷社長の決断があったそうだ。「携帯電話事業は計画通り」と三木谷社長は強気の姿勢を崩していないが、このままでは第4のキャリアへの道は相当険しいと言わざるを得ない。
撤退するかどうかは三木谷社長次第
悲観的な見方ばかりになってしまったが、楽天モバイルが既存キャリアを肩を並べるには少なくても十年はかかるというのが大勢の予想だろう。
それも相当な資金を投入して、多額の赤字を数年間覚悟する必要がある。
楽天ほどの企業なら、それだけの体力はあると思うが、その投資を許容するかどうかは三木谷社長次第だ。長期的な視野に立ち、投資を続けることができれば面白いが、それができないなら早めに撤退したほうが企業へのダメージは小さくなる。
どちらの道を選ぶかは、社長の決断にかかっている。