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日本の新興IT企業はどうして失敗するのか?

日本の代表的IT企業

日本の代表的IT企業といえば、ソフトバンクと楽天だろう。どちらもインターネット企業として成長してきたが、ここにきて赤字決算を続けている。ソフトバンクは3兆円もの赤字を計上した。楽天も楽天モバイルの不調によりグループ全体でも赤字になっている。

ソフトバンクと楽天だけではなく、メルカリの最終損失は75億円、クックパッドの2022年1〜6月期の連結決算は、最終損益約13億円だった。

各社さまざまな事情があるが、どうしてこのような状況になるのか考えてみます。

ワンマン経営のイラスト

4つの企業の共通点

ここで挙げた企業の共通点は、創業者が現役であることだ。ソフトバンクの孫社長、楽天の三木谷会長、メルカリの山田CEOは未だに現役だ。クックパッドの創業者は佐野氏は取締役だがCEOを退いたあとCEO交代のためにお家騒動を起こしたことは記憶に新しく、創業者の威光が現状のビジネスに強く影響している。

創業者は社内に強い指導力を持っているので、即断即決できるメリットある一方で、反対しにくい点がある。孫社長も三木谷会長も独裁的経営で有名だ。

赤字の理由はそれぞれある。ソフトバンクは投資に失敗したからだ。ソフトバンクグループは携帯電話事業、Yahoo!などのソフトバンク事業を担っているが、投資事業をおこなっているソフトバンク・ビジョン・ファンド事業はソフトバンク事業よりも2倍以上の事業規模をもつ。今回の決算でも、ソフトバンク事業は黒字だが、ファンド事業が大幅赤字だった。

ファンドと携帯電話事業の違いはあるが、楽天も同様だ。本業の楽天市場は黒字でも楽天モバイルが大幅赤字だった。

メルカリはUS市場への進出がネックになっている。今期はメルカリUSのユーザー数は減少し、赤字となっている。US進出の背景には山田CEOの強い意志があった。

創業者の強い指導力は正しい道を歩んでいるときは、それが誤った道の場合軌道修正が難しい。反対意見が言える人が社内にいないからだ。

そして、創業者には強い成功体験がある。自分がその事業を創業した自負がある。創業時と同じように自分の決断が正しいと常に信じてしまう自負がある。

また、創業時の成功の興奮が忘れられずに、地道に業績を積み上げることよりも、創業時の喜びを新事業に見出す創業者は多い。

楽天の三木谷会長は、楽天市場以降、楽天トラベルや楽天証券など多くの新事業を手がけて黒字化してきた。楽天モバイル事業も同様に成功すると考えたのかもしれないが、楽天トラベルなどの既存事業と楽天モバイルには大きな違いがある。楽天トラベルや楽天証券は他社を買収して事業規模を拡大したのに対して、楽天にとってMNOは初めての事業で買収する企業もなかった。MVNO事業はあったが、自社で回線網を全国に敷設するMNOとは投資額が大きく異なる。

現実に楽天モバイルは設備投資のせいで、巨額の赤字を吐き出し続けている。

サイバーエージェントは?

同じような新興IT企業のひとつに、サイバーエージェントがある。サイバーエージェントは黒字経営を続けているが、他企業と同じ罠に陥っている。創業者である藤田会長の肝煎りで開始したABEMAという新規事業が巨額の赤字を計上し続けているのだ。本業である広告事業の黒字を圧迫しているので、楽天と同様に大赤字になっていてもおかしくないが、サイバーエージェントにはゲーム事業の成功があった。「ウマ娘」の空前のヒットのおかげで、サイバーエージェントはABEMA事業で赤字を出していても黒字経営を続けている。

もちろん、ウマ娘がヒットしたのは偶然ではなく、良いゲームを開発しようとサイバーエージェント社員が努力した結果だ。ウマ娘は一度完成したが、より良いものにするためにサービスローンチを延期したのはよく知られている話だ。

事業規模は大きく異なるが、ソニーにも似たようなことが言える。今やソニーの事業で最も利益を出しているのはゲーム事業だ。プレイステーションとそのサブスク事業の成功が、ソニーグループ全体の利益を押し上げている。

創業者のガバナンス

創業者の強力な個性があったから、その企業は成功したのは事実だし、創業者の強い指導力が事業を加速させる原動力になるのも事実だ。だが、その創業者の決断が正しいかどうか吟味するガバナンスが必要だ。

多くの創業者はガバナンスの重要性を知っており社外取締役を置き、自分が一線を退くことで、創業者が長くいるデメリットを解消しようとしている。孫社長は後継者を決め、クックパッドの創業者もCEOの座を譲った。他業種ではあるが、ユニクロの柳井さんも一時期CEOから退いていた。だが、ここで挙げたどの例もうまくいっていない。孫さんも柳井さんも60歳を過ぎていまだに現役だ。

それほどに創業者自らがおのれの行動を律するのは難しい。日本のIT企業が成長していくためには、新興企業の創業者がスムーズに後継者を定めて移譲していくことが必要なのかもしれない。

IT関連のブログをほぼ毎日更新していますが、本業は高山環(たかやま かん)というペンネームで小説を書いています。
ブロックチェーンなどITを題材とした小説の他に、ミステリー、恋愛物、児童文学など様々なジャンルの作品を取りそろえています。
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