社員の半数を解雇
報道によると、テスラ社のCEOイーロン・マスク氏が買収したTwitter社の社員の半数をリストラしたそうだ。問答無用なリストラらしく日本支社の人事部全員が解雇されたという話も流れている。アメリカ企業が業績不振で社員を解雇することはよくあることだが、吸収合併された企業ではなく今後も単体でビジネスを行う企業が半数の社員を一度に解雇するのはかなりレアケースだ。
退職する人には3ヶ月のサラリーがパッケージとして渡されたそうだ。3ヶ月の給料というのは、外資系企業の退職パッケージとしてはかなり少ない部類だ。勤務年数にもよるが一年間のサラリーが一般的だ。
マスク氏のやり方はかなり強引だが、どうしてここまでリストラを敢行しないといけなかったのか考えてみます。
マスク氏の狙い
マスク氏がTwitter社を買収した理由として挙げたのは、言論規制の解放だった。トランプ氏のtwitterアカウント停止に見られるように、今までのtwitter社はいわゆるフェイクニュースや誹謗中傷を削除するためにユーザーのツイートを監視し、悪質なツイート・ユーザーの排除を実施してきた。その監視を私企業による言論統制だとマスク氏は反発していた。
Twitterが幅広い言論ができるデジタルプラットフォームにすることが買収の目的であり、金儲けではないとマスク氏は表明している。
一方で、Twitterはユーザーのニーズに合わせた広告はユーザーにとっても有益で、Twitterを世界で最も尊敬される広告プラットフォームにしたいとも言っている。
私企業である以上、Twitterがデジタルプラットフォームとして継続するには黒字化する必要がある。Twitter社の売上は伸びていて2021年度は約50億ドルだったが、営業損失は約5億ドルと赤字に陥っている。
約50億ドルという売上はTwitter社のネームバリューとユーザー数から考えるとかなり少ない。同じく広告収入が主体としているGoogleの売上は約2500億ドルで桁がちがう。
マスク氏はTwitterはもっと収益を上げられると考えているようだ。
収益化のために
黒字化するためには広告の出稿量を増やして、コストを減らす必要がある。
コスト削減のために、半ば強引に社員をリストラしたわけだ。フェイクニュースや悪質な言動がないか、ツイートを監視するためにTwitter社は大勢の社員を採用していた。今回のリストラでツイートの監視の目がなくなる懸念はある。
売上を伸ばすための広告の増加は前途多難かもしれない。ツイート監視を減らすことで、偏見やフェイクニュースが溢れることを懸念して、既に数社の企業がTwitterへの広告の出稿を取りやめると表明している。コストを減らしても、広告が集まらなければ黒字化は厳しくなる。
AIでツイートを監視する手法も考えられるが、マスク氏はそもそもツイートの過度な監視と検閲に批判的なので、広告主の懸念がすぐに解消するとは限らない。
マスク氏は広告だけではなく、さまざまな手法で収益化を進めている。有料プランに新たな機能を加えることで有料ユーザーを増やそうとしている。
新しい有料プランの機能の一つが「認証バッジ」だ。認証バッジは著名人が自分が偽物ではないことを証明するためにTwitter社へ申請し審査の末つけることができた。認証バッジの存在がフェイクニュースの排除にも貢献していた。
今後は月額料金(約8ドル)を支払えば、誰でも認証バッジをつけることができるようになるので、偽者が著名人の名を騙ることもできてしまう。
認証バッジの意味がなくなる乱暴な措置にも思えるが、私企業であるTwitterが、無償で審査を行う体制を運営するのも厳しいものがある。Twitterにとって認証バッジはコストばかりかかり売り上げに直接影響しないものだ。
それ以外にも、マスク氏はツイートの長文化やYouTubeのような投稿主が広告料の一部を受け取れる仕組みなどを検討していて、売上を伸ばすアイディアを次々と打ち出している。
半数の社員で改革ができるか?
Twitterを幅広くかつ継続した言論プラットフォームにするために、マスク氏はさまざまな施策を今後も打ち出していくだろう。それが悪いこととは一概に言えないが、規制が撤廃され、Twitterがフェイクニュースや誹謗中傷が横行する無法地帯に陥った時、そこに自社の広告を打ちたい企業がどれだけあるだろうか。
また、多くのマスク氏のアイディアを実現する体力が、リストラを完了したTwitter社にあるのかも注目する点だ。
全世界で3億人ものユーザーを集めるTwitterというサービスには、まだ多くのポテンシャルがあるように思える。数多くの人が日々ツイートしているわけだから、そこから収益を得ることも、もっと自由なプラットフォームになることも将来的に可能に思える。
ただ、自由の代わりに失うものがあるかもしれない。広告の減少や、世間の批判などに耐える必要が出てくるかもしれない。マスク氏はユーザーの動向を見つつ、改革を続けていくことになるだろう。