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ABEMAがワールドカップを無料配信できる理由

ネットでワールドカップ観戦

ワールドカップが盛り上がっている。本大会はABEMAが全試合をネット配信している。全試合ライブ観戦だけではなく、後から再生も全て無料だ(「追っかけ再生」はプレミア会員限定)。

報道によると、全試合配信するのにABEMAは200億円を支払ったらしい。ABEMAはサービス開始からずっと赤字を計上している。

それなのに、そこまでの投資をして、どうして無料で配信できたのか考えてみます。

ウマ娘の利益

ABEMAを運営するサイバーエージェントは空前の利益をあげている。22年度決算では営業利益が1000億円を超えた。本業である広告事業の収入もあるが、大ヒットした「ウマ娘」が大きく貢献している。昨年度のゲーム事業の営業利益は約600億円で、一昨年度よりは落ちたが、「ウマ娘」効果はゲームにとどまらず、ゲーム・漫画と他のメディアに広がっている。

ウマ娘の利益があるから、ABEMA単体では赤字でも、サイバーエージェントは巨額の投資ができたのだ。

テレビ朝日との協業

お金があれば、ワールドカップの中継ができるわけではない。映像は国際映像だが、音声は全64試合の日本語実況と解説をつける必要がある。日本戦であれば、試合前と後の独自中継、監督選手のインタビューも欲しい。

ABEMAはサイバーエージェントだけではなくテレビ朝日とも資本提携している。中継部分の多くはテレビ朝日のリソースと中継ノウハウに頼っている。

ABEMAがワールドカップを中継できたのは、テレビ朝日と提携していたのが大きい。

ライブ配信の経験

お金と中継のノウハウがあっても、それだけではネット中継はできない。ネットで映像を配信するには膨大なネットワーク・サーバーパフォーマンスが必要だ。負荷が高まればシステムが落ちる危険性も高まる。日本戦では、累計視聴者数が1000万を超えた。それでも、システムが落ちることはなく、遅延や映像の乱れもなかったように思う。スポーツ専用配信サービス「DAZN」の中継よりも安定していた。

ABEMAのシステムが安定している背景には、アカマイ社の技術がある。アカマイは全世界でネット配信システムを提供している世界最大手の企業だ。開設当初からABEMAはアカマイとタッグを組んでいる。アカマイのクラウド配信技術があったから、今回のワールドカップ配信を実現できたのだ。

ABEMAは過去にも格闘技のライブ配信を行なっていて、大規模イベントのライブ配信の経験を積んでいたのも大きい。

以前は、大規模イベント時に配信が落ちたこともあったが、その経験を活かして、今回のワールドカップの中継では深刻なトラブルを起こしていない。

どうして無料?

これだけの資金を投入したら、企業としては当然資金を回収したくなる。しかし、全試合無料配信なので、視聴者からABEMAには一銭も入らない。広告収入はあるが、とても200億円プラス配信コストを回収できるとは思えない。

ABEMAのもう一つの収入は有料会員の会費だ。だが、ABEMAを視聴していて、そこまで強力に勧誘を行なっていないように見える。もし、本気で有料会員を増やしたいなら、試合を後から再生する場合は有料にする方法もあったはずだ。ABEMAの他の番組の場合、一定期間が経過すると有料会員限定になるコンテンツも多い。

ワールドカップの視聴を機会に有料会員が増えたらABEMAは嬉しいだろうが、無料配信の目的は売上よりも「視聴習慣の変更」にあると思われる。

「テレビは終わった」と言われて久しいが、誰でも手軽に視聴できる地上波テレビの影響力は今でも絶大だ。一方で、今回のワールドカップの放映権を地上波テレビ局単体で購入できないことから分かる通り資金力は以前より落ちてきている。ABEMAが手を挙げなければ、日本でワールドカップが観られない危険性もあった。

テレビのリモコンにABEMAやNetflixのボタンがつくなど、以前よりはテレビでネットコンテンツを視聴することは一般化してきたが、それでも、朝起きたらまず地上波テレビの番組を観る人は多いと思う。

今回のワールドカップ視聴を機に、今まで地上波テレビを観ている層をネット動画視聴に向けることがABEMAがワールドカップの配信権を購入した主な理由だろう。

ネットでの視聴には、地上波にはできない多くのメリットがある。スマホなどで簡単に観られるのもそうだし、マルチカメラやコメント機能など、ネットならではの機能も多い。それらのサービスを体験してもらえば、ネット視聴のファンを増やすことができる。

今回、ワールドカップをABEMAで観戦して、「ネットでの観戦はいいね」と思う人が増えれば、「とりあえずテレビをつける」習慣が「とりあえずABEMAをつける」に変わる可能性がある。

200億円の資金回収は、短期間ではおそらく難しい。だが、地上波テレビの広告収入は今でも年間4000億円ある。そのうちに一部がABEMAへ流れてくれば、資金回収は可能になる。

地上波からネットへ視聴習慣を変えるために、ABEMAは大きな投資に踏みきったわけだ。

IT関連のブログをほぼ毎日更新していますが、本業は高山環(たかやま かん)というペンネームで小説を書いています。
ブロックチェーンなどITを題材とした小説の他に、ミステリー、恋愛物、児童文学など様々なジャンルの作品を取りそろえています。
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