2480円のLINEMO
最初は2980円だったソフトバンクグループの格安プランが、「LINEMO」という名前で無料通話なしの2480円として発表された。
無料通話なしの仕様と価格はpovoと同等だが、LINEの利用をデータ消費にカウントしないのがLINEMOの独自な点だ。仕様を変更した理由は、電話ではなくLINEで通話する若者のニーズに合わせたと会見で述べられている。
最近、ahamoとpovoのCMや広告をよく見かけるようになった。現在のユーザーが格安プランであるahamoやpovoに移行したら売上が減るはずなのに、どうしてキャリアが格安プランをPRするのか背景を考えてみました。
楽天モバイルへの移行を阻止
楽天モバイルのプラン「Rakuten UN-LIMIT V」に250万人以上の顧客が飛びついた。1年間無料ということもあるが、2980円データ容量無制限は驚異的だった。
総務大臣の値下げ圧力も大きかったが、それ以前に3大キャリアが楽天モバイル対策を考えなければいけなかったのは事実だ。ahamo、povo、LINEMOを3月開始する背景には、楽天モバイルの1年間無料の期限が切れる時期だったことが挙げられる。250万人は3大キャリアからしたら微々たる契約者数だが、今後大きな脅威となる可能性がある。楽天モバイルと契約することはただの携帯キャリアとの契約ではなく、楽天市場をはじめとする楽天経済圏にユーザーが取り込まれることを意味する。現代では携帯キャリアを中心として電子マネー、ショッピングモールなどキャリア独自の経済圏が作られている。3大キャリアは楽天モバイルを看過できなかったので格安プランを発表した。
こうした3大キャリアの値下げに対して、楽天モバイルは1GB未満無料という奇手に出た。新プランはユーザーに好評で、楽天モバイルの契約者数は急増しているそうだ。
せっかく楽天モバイル対抗策を講じたのに、このまま楽天モバイルへ契約者が流出したのでは意味がない。そこで、3大キャリアは巨額な広告費を遣い、既存ユーザーの繋ぎ止めを行なっているに違いない。
MVNOユーザーの取り込み
格安SIMといえば今まではMVNOだった。だが、楽天モバイルや3大キャリアの新しいプランが登場し、MVNOのポジションは揺らいでいる。MVNOは月額プランは安いが、移行時などには手数料が掛かる。楽天モバイルと三大キャリアは手数料を無料にしたので、MVNOの方がトータルの支出で不利なケースも出てきている。
今後、MVNO向け回線使用料が値下げになると、MVNOがさらに値下げする可能性もある。その前にMVNOユーザーを取り込むために3大キャリアが攻勢をかけていると思われる。
時代は逆戻りしない
一連の新しいプランは、過去のプランよりも圧倒的に安く、半額に近い。もちろん店舗でのサポートができないなどの違いはあるが、この価格差ではいずれ大多数のユーザーが新しいプランへ移行するに違いない。
そうであれば、自社のユーザーを逃さず囲い込んだ方が良い。
コスト削減
3大キャリアの新しいプランの特徴は低価格とオンライン手続きだ。キャリアにとって店舗の運営とフランチャイズ契約の販売管理費は多額になっていて、経営を圧迫している。オンラインサポートとオンライン手続きならその販管費を削減できる。コロナ禍で多くの手続きがオンライン化しているので、今までネットに縁遠かったユーザーもオンライン手続きに慣れてきている。
コロナがいつ収束するか見通せないが、コロナ以前の世界に戻るとは思えない。できる限り人との接触を避ける環境は続くと予想される。アフターコロナの世界では店舗運営コストは大きな負担になる。
直営店の社員やフランチャイズ企業にとっては冷徹な判断になるが、アフターコロナに対応するために、店舗に頼らない新しいプランは最適なタイミングとなったかもしれない。
コロナが変えたキャリア
一見、総務大臣の圧力で新プランが実現したように見えるが、大規模なプランの変更にはコロナが大きく影響していると思われる。アフターコロナの世界では店舗の重要性は薄れ、むしろ負担になる。
価格競争の意味合いが強かった新しいプランを巡る動きだが、その一方でコロナ後の世界を身透けてキャリアは対応を進めている。