国内メーカー衰退の歴史
筆者が初めて購入したパソコンは、NEC「PC-8001mkⅡ」だった。その後は、NEC「PC-8801FR」を買って、初めてのDOS/Vパソコンは富士通の「FM-V DESKPOWER」だった。
どれも国産メーカーのパソコンだ。その後は、ソニーやパナソニックのノートPCを買い続け、最近はDellとAppleに変わった。
筆者が国産から外資系メーカーに乗り換えたように、ここ十年の国産PCメーカーは衰退の一途をたどっている。
国内最大手のNECと富士通はLENOVOグループの傘下に入り、ソニーはPC事業から撤退した。純粋な国産メーカーはパナソニックとVAIOぐらいだが、海外のシェアはもちろん国内のシェアも外資系の後塵を拝している。
携帯電話も同様で、最大手だったNECは携帯電話事業からすでに撤退している。
どうして、国産ITメーカーは外資系メーカーに負けてしまったのだろう。理由を考えてみます。
海外進出の失敗
国内ITメーカーが衰退したのは、海外進出の失敗が一番の理由だ。日本市場は単一国家としてはアメリカの次に大きく(今は中国に次いで世界3位)、成長している業界なら日本市場だけでも、ある程度の利益を確保できてしまう。
言語も慣習も異なる海外市場を攻略するより、成長する国内市場でシェアを拡大する方に目が向いてしまう。
PCで言えば、NECと富士通の競争が長らく続いた。その間にコンパックやDellなどの海外企業が世界市場を席巻し、国内市場まで侵食してきた。
PCメーカーは、他社から仕入れたCPUなどのパーツを組み立てて販売するビジネスモデルなので、大量に安くパーツを発注できる企業が有利になる。
2010年代に入ると、PCがコモディティ化して各社の性能が均一化してきた。こうなると価格勝負になってしまい、小さい市場で勝負してきた日本企業に勝ち目がなくなってしまった。
もちろん日本企業も手をこまねいていただけではなく、NECはヒューレットパッカード社と連携するなど、海外進出を試みたが、ほとんど失敗に終わった。
東芝のダイナブックとソニーは海外でもそこそこ成功したが、両社とも多くのシェアを握るよりもブランド価値を高める戦略だったので、シェアを大きくとることができず、その間にPCのコモディティ化が進み、やはり価格競争に敗れることになる。
携帯電話でも同じ轍を踏む
携帯電話でも同じ過ちが繰り返された。PCと同じくトップシェアを確保していたNECと富士通の携帯電話事業は、今は見る影もない。やはり、中途半端に食えてしまう日本市場の大きさが海外進出の手を緩めさせてしまった。
スマートフォンの時代になり、Android OSが全盛になると、PCの時と同様にスマートフォンがコモディティ化していき、各社の性能の差が小さくなってきた。
そこで、アジア系メーカーにコスト面で日本企業は負けてしまった。
携帯電話市場がPCと違うのは、アジア系メーカーが強いことだ。PCでも中国系のLENOVOは世界シェアトップだが、他のアジア系メーカーよりもアメリカ企業であるDellとHPが今でも強い。
一方、携帯電話市場では、トップ企業であるSamsungだけではなく、HUAWEI、Xiaomi、OPPOなどのアジア系メーカーが強く、欧米系メーカーで強いのは高いブランド価値を誇るAppleのみだ。
Lenovoの成功体験を生かして、SamsungやHUAWEIは安売りではなく、最先端の技術を採用し、ブランド価値を高める戦略にでたのが大きい。
PC事業での失敗を反省してアジア系メーカーが成功したのに、日本企業はPCと同じ過ちを繰り返してしまった。
次の土俵であるサービスでも・・・・・・
PCとスマートフォンと続いたハードウェアのビッグウエーブは、今後は起きないだろう。あるとすれば自動運転だろうが、こちらはハードウェアよりもソフトウェアの領域が大きい。
現在、競争が激しいのはサービスだ。音楽、動画、クラウドサービスとインフラだけではなく、ソフト資産の調達が重要になってきている。
NetflixやAmazonはドラマや番組を製作するのに多額の資金を投じている。ハードウェア事業は、グローバルで統一した製品を提供することでコストを抑え利益を上げる戦略だったが、サービスはローカライズが逆に鍵となる。各国の趣向に合わせたソフトを確保するには大量の資金が必要になる体力勝負の世界だ。
ハードウェアのシェアを独占して得た利益を投入できるグローバル企業が有利で、いわゆるGAFA(プラスNetflix)が市場を独占しつつある。
ここでも、資金力で劣る日本企業が世界市場を獲得できる可能性は非常に低い。
日本市場が、まだ一定の規模を維持しているうちはいいが、日本市場が縮小してくると、日本のITメーカーはさらに厳しい状態に陥るかもしれない。