「電波オークション」に反対する楽天モバイル
楽天の三木谷会長が「電波オークション」に反対を表明した。
最近よく聞く電波オークションというのはなんだろう。どうして楽天は反対しているのか考えてみます。
「電波オークション」とは?
電波オークションとは、周波数の利用権(利用免許)をオークション(競売)で売却することを指す。アメリカやヨーロッパなどでは一般的な手法で、35カ国のOECD加盟国のうち電波オークションを実施していないのは日本だけだ。
日本では、監督官庁である総務省が申請があった企業を審査をして、市場活性化や公平性を考慮して、周波数が活用できる企業を決定している。
他国と比較して、日本は電波利用料が安いという指摘がある。以前は、周波数を活用していたテレビ・ラジオ局がある程度の公共性を保っていたので、電波料金への批判はそれほどでもなかったが、携帯電話事業者が莫大な利益を上げるようになってさらに電波利用料金が安すぎるという批判が向けられるようになった。実際は携帯電話事業者はそれなりの利用料金を支払っていて、本当に安いのはマスコミ向けの利用料金だが、あまり報道されていないような。
電波オークションが海外で浸透したのは、税収の増大が目的だった。周波数は限られているので、電波を利用する事業者は独占的に利益を上げられるので、電波周波数をオークションに出せば、多くの企業が参入し金額が吊り上がる。
もう一つの理由は経営の安定化だ。電波周波数の利用には公共性が求められるので、それを運営する企業には安定性が求められる。周波数を利用していた携帯電話事業者が倒産して電話が繋がらなくなる事態になったら困るわけだ。
高い電波周波数利用料金が支払える企業なら、ある程度の経営の安定性が担保できるというわけだ。
楽天はどうして反対しているのか?
政府が不透明な審査で電波周波数の利用免許を交付するよりも、オークションをした方が透明だし、IT企業はそちらの方が好みそうだけど、楽天は猛反対している。
電波オークションをすれば資金が豊富なドコモなどの大手が免許を勝ち取り、値上げになった電波利用料金の負担でせっかく安くなった携帯電話料金が値上げになると三木谷会長は主張している。
楽天も充分な資金力がある企業だが、携帯電話事業への投資のせいで現在は赤字に陥っている。この上、電波利用料金まで値上げされたら携帯電話事業を黒字化できないと考えるのはもっともだ。
ただ、だからと言って他国に比べて安いコストで国民の共有財産である電波を特定の企業が使うのはおかしい。他国の事業者は電波オークションで決まった利用料金を支払って、日本と同程度の価格で携帯電話サービスを提供している。もちろん、サービスの質が日本の企業と同レベルなのか議論の余地はあるが、利益がでない企業は電波オークションから撤退するわけで、健全な競争が保たれている。
健全な競争を志向していそうな楽天が反対しているのは、オークションをしなくても自分たちが新しい周波数を取得できると思っているからだ。
市場を活性化させるために、新規事業者である楽天には優先的に周波数が割り当てられることが予想されていた。楽天はいわゆるプラチナバンドを持っておらず、既存の3大キャリアよりも不利な競争を強いられている。
もしも、電波オークションが採用されれば、楽天が新しい周波数を得られる保証はなくなり、楽天の携帯電話事業が窮地に陥る危険性がある。
潮目が変わってきた携帯電話政策
他国より高いといわれる携帯電話料金を値下げするために、新規事業者である楽天が価格破壊を起こせるように菅総理の指示のもと総務省が色々と考慮してきた。
ところが、菅総理が退陣し、楽天に対抗するために3大キャリアも相次いで実質的な値上げを実施、povoのような基本料金0円のサービスまで登場した。
「携帯電話料金の値下げ」という目的はある程度達成されたわけで、悪い言い方をすれば、楽天の携帯電話事業がどうなろうが政府はすでに関心を持たなくなってきている。楽天が相次いで障害を起こし、基地局の敷設計画が予定通りに行っていないのも印象が悪い。
携帯電話料金が安いままなら、電波オークションによって税収が増えた方が良いわけだし、安い料金で企業が公共の電波を利用しているという批判もかわせる。
楽天の事情はさておき、透明性が高まる電波オークションは日本でも実施すべきだ。無条件に高い値付けをした企業に利用免許を交付するのではなく、安定的に電波が利用されるようにある程度の条件はつける必要はあるが、健全な競争は必要だろう。
それによって携帯電話料金が値上げになる可能性はあるが、値上げすればユーザーが逃げてしまうので、最低限の電波周波数を用いて安い価格でサービスを提供する企業が現れるなど、市場に多様性が生まれる。
当初の赤字覚悟で携帯電話事業に投資してきたので、今更ルールを変えるなという楽天の意見もわかるが、今まで公平な競争を標榜してきたのに電波オークションに反対するのは筋が悪い。
そうやって多種多様な手段で競争することが、健全な携帯電話市場を作ることになると思いますが、どうでしょうか。