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「第12回ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作の「夏のピルグリム」を7月18日に刊行

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藤井七段が将棋というゲームを破壊する⁉

強すぎる藤井七段

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昨年の29連勝から一年経ち、藤井七段がさらに強くなっている。昨年ぐらいは「藤井君は本当に強いのか?」と言われることもあったが、今年佐藤天彦名人、羽生永世七冠を撃破し、今年度は9戦負けなし、「藤井七段はどこまで強いんだ?」「藤井七段を負かす相手はいるのか?」と多くの人が実力を認める棋士となった。

将棋は棋戦によって持ち時間が異なる。持ち時間10分の棋戦もあれば、最も歴史ある名人の挑戦に繋がる順位戦は6時間、将棋界最高位の竜王戦の予選は5時間もある。5時間以上の持ち時間の棋戦で、藤井七段は30勝1敗(2018/06/27現在)。唯一の敗戦は29連勝が止まった佐々木勇気戦で、あれから一年間、一度も負けていない。百数十名いる棋士で、七戦以上負けなしは藤井七段ただ一人。

持ち時間が長い棋戦では、膨大な筋を読む時間がある。時間があれば藤井七段は多くの最善手を見つけることができていることを意味する。

あまりに強すぎるので、藤井七段が将棋というゲームを破壊してしまうと危惧する人まで出てきている。

全ての情報が開示されているゲーム

将棋は二人零和有限確定完全情報ゲームに分類されるゲームだ。麻雀やポーカーと違って、すべての情報が隠されていないので、偶然の要素がない。理論的にはすべての局面でプレイヤーが最善手を打ち続ければ必ず勝てるゲームだ。わかりやすい例で言えば、三目並べは両者が最善の手段をとり続ければ、必ず引き分ける。

将棋と同じ分類に入るゲーム、オセロは、6X6のマス目であれば後手必勝が判明している。駒に種類があり、取った駒を再び使うことができる将棋ははるかに複雑で、現段階では解析されていない。よく言われるのが、理論的な譜面の種類が将棋の場合10の220乗、宇宙の原子よりも多いという。だが、これは理論上発生し得る譜面の数で、ゲームの中で現れる局面はもっと少ない。

人間よりもはるかに計算能力が高いコンピューターは全ての筋を読んでいるわけではないが、毎秒数億の手筋を予測し、評価値が最も高い、限りなく最善に近い手を見つけることができる。

最善手を打ち続ければ、先手必勝、後手必勝、千日手(引き分け)のいずれかの結果が出るはずだが、コンピューター同士を対戦させても、現段階では結果は決定されない。コンピューターをもってしても、将棋の完全解析を行えていないのだ。

たとえ、コンピューターが将棋を完全解析を終えたとしても、人間がすべての譜面を暗記するのは不可能なので、人間同士で対戦する将棋というゲームが破壊されることはありえない。

藤井七段がAIを超えた一手があったと話題になったが、逆に考えればその他の手はコンピューターが予測できている。コンピューターの最善手と藤井七段の手の一致率は他棋士と比較してかなり高いが、それでも60%ほどと言われている。

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最善手の探求

藤井七段の初手は、必ず飛車先の歩を突く。プロになってから例外なく100%だ。将棋は初手からの数手で方向性が大体決まる。初手が決まっていれば、先の見通しがつくので、相手は事前に研究でき藤井七段にとって不利になりそうだが、藤井七段の中では、初手の最善手がすでに決まっているのだろう。その後も角換わりなど限られた戦法を藤井七段は用いる。

コンピューターと違い、対戦相手は常に最善手を打つとは限らないので、相手に合わせて藤井七段の打ち手は変化するが、限定した戦法を用いることで藤井七段は将棋の最善手を探求しているように思える。

先手必勝の時代が来る?

チェスほどではないが、将棋は先手有利と言われている。プロの対戦では先手の勝率は52%程度。わずかだが先手の方が高い。藤井七段の場合、先手の勝率は9割を超えていて、後手よりも6分ほど高い。先手の方が自分のやりたい手順で進められるので、将棋が先手必勝にならなくても、先手の勝率が異常に高い最善手を藤井七段が見出すかもしれない。

将棋は破壊されないが、棋界は?

将棋というゲームが完全に解析されて、先手あるいは後手の必勝、または千日手の結論がでることは当分なさそうだ。仮に結論が出たとしても、膨大な変化筋を人間が暗記するのは不可能なので、対人の将棋というゲームが破壊されることはない。

ただ、藤井七段の最善手への探求が深まってくると、他の棋士がついていけない可能性はある。まだ藤井七段はタイトル戦がかかった番勝負には出場していない。このまま勝ち進み、いくつかのタイトル戦の番勝負に出た時、本当の藤井七段と他棋士の実力の差がわかるだろう。

その先に、藤井七段(そのころは藤井XX冠か?)が勝率100%になるぐらい他棋士と差がつくかは現時点ではわからない。

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