藤井棋聖誕生
第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局で、藤井聡太七段が渡辺明棋聖に勝ち、藤井棋聖が誕生した。デビュー29連勝以来の第2の藤井ブームと呼ばれている。
デビューから進化してきた藤井将棋だが、三年間将棋人気が持続したのはABEMAの力が大きい。
以前はニコ生がインターネット上の将棋中継を行なっていたが、最近のニコ生は自社が主催している叡王戦の中継だけで他の棋戦の中継から手を引いている。
ニコ生に変わって、インターネットの将棋中継を行なっているのが、ABEMAだ。ABEMAが中継していなければ、将棋ブームも起こらなかったと思う。
藤井棋聖の天才的な棋力があったことはもちろんだが、ウェブテレビと将棋の相性が良かったこととABEMAの企画力が支えたブームだと思う。
長い放送時間
将棋の対局時間は長い。昨日の棋聖戦の両者の持ち時間は4時間。最も長い棋戦だと二日制で9時間にも及ぶ。朝から夜中まで対局が続くことも珍しくない。
終局時間も読めない。将棋は負けた方が「参りました」と言って終局する。サッカーなどと違って、対局時間が読みづらい。
あまりにも長く、終局もわからなければ、放送枠が決まっているテレビでの中継は難しい。対局のほとんどの時間は、盤面では何も起こらないので絵面も悪い。
テレビでは中継できなくても、チャンネルに制限がなく、放送時間に融通がきくウェブテレビは将棋中継と相性が良い。
パソコンでながら見もしやすいし、朝からずっと観戦できなくても、ブックマークをクリックすればチラ見も容易だ。
昨日の渡辺藤井戦の累積視聴者数は690万を超えた。累積なので690万人がずっと観ていたわけではなく、観たり消したりしながら視聴していた人が多かったと思う。
そういった視聴ができるのは、ウェブテレビの特徴だ。
評価値・候補手
ABEMAの将棋中継では評価値が参照できる。将棋は難しく、素人にはどっちが勝っているかさっぱりわからない。だけど、AIが計算した評価値によって、誰でも形勢がわかる。
評価値は邪道だ、自分で考えてこその将棋という意見を持つ将棋好きもいるが、どちらが優勢かどうわからないと、観ていても面白くない人も多い。
評価値の他に候補手もわかる。どの指し手がAIが思う正解なのかわかることで、棋士が指した手が凄いのか間違えたのかわかるので、盛り上がる。
コメント機能
ニコ生もそうだったが、ABEMAにはコメント機能がある。コメントを書き込むことで、一人で観戦していても他人と一緒になって盛り上がることができる。将棋の観戦は指し手が進まない待ち時間が多いけど、コメントを読んでいるだけでも楽しい。
ABEMAの将棋チャンネルは24時間中継か再放送を流していて、何度も放送した藤井棋聖の対局を再放送している時間帯も長い。それでも、一定の将棋好きがいつも集まって、コメントで雑談をしている。
コメント機能も将棋中継と非常に相性が良い機能だ。
企画力
ABEMAはサイバーエージェントとテレビ朝日が出資した企業だ。テレビ朝日関連のスタッフが制作しているので、他のウェブテレビと比べて、地上波よりの番組を制作している。
将棋チャンネルでも地上波譲りの企画力が発揮されている。藤井棋聖が注目を浴びた最初のきっかけはABEMAが企画した「炎の7番勝負」だった。中学生だった藤井棋聖がトッププロ棋士をなぎ倒し、最後に羽生永世七冠を倒した時は地上波でも大きく報道された。
その後、藤井棋聖の対局だけではなく、超早指しの「Abema TVトーナメント」を企画し、3回目の今年は団体戦を放送している。観戦に時間がかかる将棋中継の課題を解消するために一局15分程度で終わるフィッシャールールは将棋を一般向けコンテンツに変えてくれた。
個人戦の将棋は周りの反応も少ないが、団体戦にすることでチームメンバーの反応も楽しめるようになり、棋士の人となりがよくわかり、観戦の面白味も増した。今は毎週土曜日に生放送をしていて、さらに臨場感ある対局が楽しめている。
ABEMAプライム
ウェブテレビであるABEMAは、チャンネル内の視聴だけではなく、ビデオで振り返り視聴もできる。仕事が終わった後に後から振り返って観戦できるし、長い対局時間の見所だけを早送りで観戦することもできる。
有料会員のABEMAプライムに入れば、アーカイブされた過去の対局も観戦できるので、今までの藤井棋聖の歴史を振り返ることもできる。
優良コンテンツとなった将棋
数あるABEMAのコンテンツの中でも、将棋チャンネルの視聴者数は非常に多い。放送時間が長いのもあるが、昨日の累積視聴者数は将棋がダントツである。
膨大な制作費が重荷で赤字経営が続いているABEMAだが、将棋という優良コンテンツを上手に用いて、収益に繋げることもできるかもしれない。