小説とIT

「第12回ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作の「夏のピルグリム」を7月18日に刊行

「第12回ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作の 「夏のピルグリム」 が7月18日に発売になります。初の単行本形式の小説です。
興味がある方は書店で予約してみてくださいませ。

MENU

藤田社長のインタビューから考えるABEMAの今後。課題はCMの見せ方か

ABEMAの将来

ABEMAについて、サイバーエージェントの藤田社長がAV Watchのインタビューに答えていた。内容が興味深かったので、読んだ感想を記します。

f:id:tkan1111:20210622103959p:plain

有料?無料?

インタビューの中で藤田氏社長は、「オンデマンドに振りすぎた」と言っている。ここ数年ABEMAは収益を上げるために有料会員を増やしてきた。ところが藤田社長は「そうするとNetflixのサブスクリプション型になる」と発言している。NetflixやAmazonが主導して月額1000円がサブスクの基準になっていて値上げが難しく、体力勝負になると世界企業であるNetflixに勝てないと言っている。

ではどうするのか。インタビューからはわかりづらいところもあるが、どうやらABEMAは「有料は有料で価値を高める。無料は無料で視聴者を増やす」という方針に切り替えたようだ。

確かに最近のABEMAは有料コンテンツが大幅に増えている。有料会員だけにしか視聴できないコンテンツは「無料ではコンテンツを見せない」のではなく「有料だとより多くのコンテンツを視聴できる」というスタンスに見える。有料コンテンツを視聴しなくてもコンテンツは十分に楽しめるが、有料会員になるとより深く楽しめる仕掛けになってきている。

例えば、将棋チャンネルの場合はリアルタイムで普通に将棋を観戦するなら無料会員でも全く困らない。ただ、楽屋話みたいなコンテンツや最近始まったマルチアングルで視聴するには有料会員になる必要がある。

理想的なフリーミアムな形式になりつつあるように思う。フリーでも楽しめるようにすることで視聴者を集めて、より深く楽しみたい人は有料会員に移行して、そこで収益を得る。この方法は会員にならないと何も視聴できないNetflixやAmazon Primeに比べて大きなアドバンテージだ。

無料会員ばかりだと収入はゼロになってしまうが、ABEMAはインターネットテレビからスタートしたので番組の合間に広告を流せる。広告収入で赤字をある程度補填できる。

トレンドはライブ中継

藤田社長は「トレンドが大事」だとも言っている。いわゆるバズることで、多くの視聴者が集まり、大きなムーブメントになる。昔のテレビがそうだったし、今でもTwitterなどでテレビ番組がバズることは多い。誰もが何度も観たことがあるはずなのにテレビでラピュタを放送すると、大きな話題になる。

こういったトレンド形成に大事なのが、ライブ放送だと考えているようだ。将棋や麻雀チャンネルではオンデマンド視聴は有料になっている。以前は無料だったのに有料にした理由は、有料会員を増やすためだと思っていたが、どうやら「ライブ視聴」を増やしたい意図もあるようだ。

ライブの視聴者をたくさん集めることで、その人たちがTwitterなどで発言し、大きな話題になると考えているようだ。

地上波テレビでラピュタの話題が盛り上がるのは、ライブ放送だからだ。藤田社長はテレビの特徴を「生放送」だと言っているので、ライブ中継によるトレンド作りを企図していると思われる。

ポータルを設ける

ABEMAは新しいUIを検討している。新しいUIではランキングを表示してオンデマンドコンテンツと放送中のコンテンツを融合するそうだ。

これは正しいアプローチのように思える。ABEMAにはポータル的な画面がない。ABEMAはテレビを元にしているので、放送中のチャンネル、番組表、ビデオと、既存のテレビ視聴と似たスタイルをとっている。

ABEMAにアクセスしたらすぐに番組が視聴できて、スマホならスワイプでチャンネルが切り替わる。電源を入れたらすぐに番組が視聴できる地上波テレビと一緒だ。

一方、ネットサービスではポータル画面があるのが一般的だ。YouTubeもNetflixもアクセスするとまずはメニューが表示される。視聴者の嗜好に合わせたコンテンツが表示され、最近流行しているトレンドがわかる。

ポータルがあることで、現在一番アツいコンテンツがすぐにわかり、そこに視聴者が集まり、さらに盛り上がるサイクルを作ることができる。

赤字は意図的?

ABEMAというと決算のたびに巨額な赤字が話題になるが、「いつでも黒字にできる」と藤田社長は言っている。強がりではなく、事実だと思う。なぜならABEMAの年間売上は800億円近くあるので、それ以下にコストを削減すればすぐに黒字になる。コストの多くは番組制作費だろうから、コンテンツを減らすか多少質を落とせば黒字化は可能なわけだ。

だが、藤田社長はコンテンツの質を落とさないと言っている。赤字になってもそれ以外の事業で補填できているうちは問題ないとしている。サイバーエージェント全体では広告収入の他に最近では「ウマ娘」などのゲームによる収入があるので、ABEMAが赤字でもグループ全体では黒字を維持している。

藤田社長は「長期戦をやり抜けば勝てる」と主張している。詳細な説明はなかったが、サービスを長く続ければ視聴者が増えて、視聴習慣を持たせることができる。いずれは空き時間があればアクセスしたり、ながら視聴する「テレビ」のようなものになると考えているようだ。

課題は?

藤田社長が言及しなかった課題はなんだろう。

広告をどのように見せるかは大きな課題だと思う。無料コンテンツに制限をかけて有料会員を増やす方策を取らないと、無料ユーザーが大多数のままだ。無料ユーザーが多くても黒字化を実現するためには広告収入が大事になる。ただ、広告が増えれば視聴者はウザく感じて視聴をやめてしまうかもしれない。NetflixなどCMがないコンテンツに慣れているユーザーにはCMはうざいし、時間の無駄に思えてしまう。YouTubeにはCMがあるが、とても短いのでギリギリ耐えられる。YouTubeは有料会員ならCMをスキップできるが、ABEMAのライブ配信は有料会員でもCMを飛ばすことはできない。

藤田社長は「広告をあまり流すな」と現場に指示しているようだ。社長も「広告がうざい」のは理解しているようだ(本業は広告代理店だけど)。では、どうやって広告を見せていくのか。ライブ配信で広告をどのように見せていくかは今後の課題だと思われる。

ABEMAに期待

国産で最も成功している動画配信サービスがABEMAだ。日本に合わせたコンテンツを制作し続けるABEMAはとても貴重なサービスだ。巨額な赤字が続き、サービスの存続が危ぶまれた時期もあったが、「ウマ娘」のヒットにより、黒字化するまでの時間的猶予はかなりできた。その間にABEMAの売上も伸びているので、社長がいうように「いつでもマネタイズ」できる状態でもある。

CMをどう見せるかなど、インターネットテレビならではの課題はあるが、ABEMAの番組を楽しみながら、ABEMAの将来に期待していきたい。

IT関連のブログをほぼ毎日更新していますが、本業は小説家です。
ブロックチェーンなどITを題材とした小説の他に、ミステリー、恋愛物、児童文学など様々なジャンルの作品を取りそろえています。
Kindle Unlimited会員ならすべて無料、非会員の人にも99円からご用意していますので、お読みいただけると幸いです。感想もいただけたら感涙でございます。