Abema TVがABEMAへ
4月11日からインターネットテレビ「Abema TV」が「ABEMA」に変わった。「TV」が取れて、ABEMAのロゴの下に「TV&VIDEO ENTERTAINMENT」と記されるようになった。
社長のインタビューも出ているので、インタビューを読み解きながら、どうして「TV」が消えたか探ってみよう。
CMモデルの衰退
ABEMAは、若者の嗜好にあわなくなった地上波テレビの代わりに「ながら視聴」のニーズを吸収するために生まれた。地上波テレビの代わりなので、番組の間にCMを流してCMの広告料で稼ぐビジネスモデルだ。
ところが、このビジネスモデルはうまくいかなかった。Abema TVが開始してから暫く経つとAmazon PrimeやNetfilixなど定額制の動画配信サービスが流行し始めた。無料だがCMがあるAbema TVよりも、好きな時に好きなだけ観られるサービスを好む人が増えた。
「好きな時に」も重要な要素で、放送時間になったらパソコンやテレビの前に座ってAbema TVを観るのも面倒だ。YoutubeやAmazon Primeなどのオンデマンドに慣れてしまえば、旧来のテレビ視聴が、だるいものでしかない。
Abema TVは「地上波テレビのコンテンツ」が古いと考えたが、古いのは「地上波テレビを視聴するスタイル」そのものだったのだ。
オンデマンドへの移行
そこでABEMAはオンデマンド視聴ができる有料会員の拡充をここ2年行ってきた。そして、ついにサービス名から「TV」が取れて、オンデマンドをサービスの中心とすることになった。
これは非常に正しい措置だと思う。Amazon Primeなどの海外サービスだけではなく、Abema TVがライバルとしていた地上波テレビもTverやNHK Plusとオンデマンド視聴を開始している。他のサービスに遅れないようにするために、適切な対応だと思う。
ライバルに勝てるのか?
オンデマンド視聴に舵を切ったのは正しいが向かった海はブルーオーシャンではない。前述の多くのサービスが凌ぎを削っているエリアだ。
ライバルに打ち勝つためには、プライスとコンテンツが何より大事だ(インターフェイスやサービスの質も大事だけど、ここでは省く)。
AMEBAの有料会員「AMEBAプライム」は月額960円だ。Amazon Primeの500円、Netflixのスタンダードプラン1,200円の中間の価格帯で、他のサービスと勝負になる値付けだ。
肝心のコンテンツはどうだろう。動画配信サービスは、映画などのコンテンツと自社制作のドラマ・バラエティを主力としている。
ABEMAも映画などのラインナップを拡充し、Amazon Primeなどに負けないように取り組んでいる。ただコンテンツ制作は遣えるコストが鍵となる。製作費が潤沢な海外サービスにAMEBAは勝てるのか。藤田社長はインタビューでこの点に触れている。
実際、テレビ局のクリエイターが海外の大手に転職している流れもあるので、時間をかけていると追いつかれて、「日本の視聴者に向けた、日本語の番組を多額の資金で作る体制」ができてしまいます。今はまだ、彼らにはやれてないですが。
引用:AV Watch
Netflixの「全裸監督」など単発で優れたコンテンツは登場しているが、例えばAMEBAが行っているような日本語向けバラエティを継続して発表できる体制は整っていない。
外資系企業だとローカル独自の企画を通すには米国本社の承認が必要な場合が多く、どうしても時間がかかる。AMEBAがローカルの強みを活かして、日本に合ったコンテンツを継続して提供できれば、外資サービスに対抗できる余地はあると思うが、長期間優位を維持できるのかは不透明だ。
危険な賭けだけど、他に道はない
オンデマンド視聴中心に方針を変更したABEMAだが、この先の航海は険しい。オンデマンド視聴は、Amazon PrimeやNetflixなどの海外勢、TverやNHK Plusのように無料で視聴できる地上波番組、動画配信サービスの巨人YouTubeがひしめく。競争が激しい中で、後発のABEMAに月額960円を継続的に払わせるのは容易なことではない。
ただ、地上波のCMモデルでうまくいかなかった以上、この先、強力なライバルに打ち勝てるかは不透明だが、有料課金モデル以外に黒字化の有力な方法は見当たらない。
ただひとつ言えるのは、ABEMAが黒字化する道が相当険しいのは間違いない。
元々、年間2兆円近い莫大な広告費を地上波テレビから奪い取るとのがAbema TVの戦略だった。だが、オンデマンド視聴主体への転換で、ABEMAの独自性は消えつつある。テレビ広告という巨大なパイを独り占めすることは不可能になり、動画配信サービスという別のパイをみんなで取り合うことになった。
このモデルで年間200億円の赤字を黒字化できるのか、危険な賭けだが他に道はないと思われる。個人的には、将棋や麻雀などの他のメディアにはない中継をしてくれているABEMAには頑張って欲しい。