将棋ブーム
藤井聡太の29連勝以来、筆者は将棋を観るようになった。子どもの時に将棋のルールは覚えたけど戦法も棋士もほとんど知らなかった。
今でも将棋を指すことはないが、現役棋士は大体わかるようになった。典型的な「観る将」(みるしょう。観戦するだけの将棋ファン)である。
史上最高の観戦環境
将棋は千年の歴史があるが、現代は将棋を観戦する人にとって最高の環境だ。Abema TVやニコニコ生放送で、多くの棋戦が生中継されている。藤井七段の全棋戦、タイトル棋戦はすべて中継されている。しかも基本無料である。おかげで、藤井七段は世界で最も生中継される高校生になっている。
ネット中継が始まる前、NHK杯など一部のテレビ棋戦を除き、ほとんどの棋戦は棋譜しか中継されていなかったので、ファンであっても動く棋士を映像で観るのは年に一度もない。現代とは隔世の感がある。
今の将棋ブームは藤井聡太の快進撃がきっかけであるが、ネット中継があったからブームが加速したと言っていい。
だが、将棋観戦が一般的なエンターテインメントと認知されたかというと、そうでもない。実際に将棋を一局観戦したことがある人は少ないだろう。
将棋がエンターテインメント化できていない理由はふたつある。長い対局時間とライブ観戦ができないことだ。
あまりにも長い対局時間
将棋の持ち時間は棋戦によって様々だが最も長い名人戦で9時間あり、二日間にかけて行われる。一日で決着がつかない勝負なんて囲碁と将棋ぐらいしかない(クリケットもそうだけど日本ではなじみがない)。
他の棋戦でも朝から夜中まで戦って、やっと勝敗がつく棋戦がほとんどだ。対局時間が12時間を超える棋戦も、ざらだ。NHK杯などのテレビ棋戦は待ち時間が短く一時間半で終わるような待ち時間を設定しているが、将棋界で権威があるタイトル棋戦は持ち時間が長い。
ずっと観戦していられる人は少ないだろう。だから、Abemaは、AbemaTVトーナメントという待ち時間5分で3本勝負の非公式棋戦を行っている。
無観客試合
多くの棋戦は直接観戦もできないので、観客も呼べない。将棋は集中力が必要なので、多くの人の前で対局ができない、ことになっている。これでは観客からお金を取ることもできない。
音楽や映画などコンテンツの値段が下がり、ミュージシャンはライブ活動に注力するようになってきていて、多くのライブは盛況だ。ライブでしか得られない迫力と感動があるからだ。
将棋がエンターテインメントとして売るためには、観客が直接観戦できるようにするべきだ。そのためには持ち時間が短く、早く決着がつく必要がある。
朝日杯は待ち時間が90分と比較的短く観戦もできるが、それでも一局に3時間以上かかる。
エンターテインメントとしては2時間で終わらせたい。持ち時間5分のAbemaTVトーナメントはそれで面白いが、運の要素も強くなってくるので、タイトル棋戦なら持ち時間30分ぐらいは欲しい。
伝統を維持しつつ時代に合わせるバランスは難しい。歴史あるタイトル棋戦のすべてをかえる必要は無いが、8大タイトル棋戦のひとつぐらいは1時間以下にしてもよいのではと思う(ニコニコ生放送が主催する叡王戦は7局中2局で待ち時間1時間が選べるが、過去に実施された例はない)。
元祖「金が取れるゲーム対戦」
e-Sportsの対戦は観客も入れて盛り上がっている。将棋もゲームであり、知的で迫力がある「お金が取れる戦い」だと思う。
将棋のスポンサーは新聞社がほとんどだ。新聞の売れ行きは芳しくなく、この先スポンサーを降りることがあってもおかしくない。
そうなっても将棋というゲームで一生食っていけるという世界でもユニークな業界を維持するために、ファンを多く増やすライブ観戦する機会を増やすべきだと思う。