宝島社より 「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」 が発売になりました。私にとっては初の商業出版になります。
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将棋と小説

将棋を観戦するようになって、7年になります。7年前というのは現在八冠を保持している藤井聡太竜王・名人がデビューした年で、藤井さんの圧倒的な才能に惹かれて、将棋を観るようになりました。
将棋のルールは知っていましたが、それまでプロの将棋を観たことはありませんでした。
観戦はしますが、自分では指さないので、いわゆる「観る将」です。

今では、プロ棋士の方の名前は大体覚えましたし、棋界のしきたりもわかるようになりました。
将棋は81マスの盤と8種類の駒しか使わないシンプルな形態のゲームなのに、進行とても複雑で、毎日何万局指されているのに同じ局面になることはないといわれています。
将棋のすごいところは江戸時代からルールがほとんど変わっていないことです。それだけ完成されたものなのに、現在に至るまで必勝法は解明されていません。

もうひとつ将棋のすごいところは、将棋を指して生活ができることです。将棋は文化であり、ゲームでもあります。約200名いるプロ棋士の方は対局料をもらい、勝ち進めば賞金も増えます(今年の藤井さんの年間賞金額は二億円を超えるといわれています)。

今でこそeスポーツの賞金で生計を立てている人がいると思いますが、将棋(囲碁もです)のようにゲームで生活できる仕組みを100年間守り続けてきたことは驚嘆に値します(日本将棋連盟は来年百周年を迎えます)。

独特の将棋の世界に魅せられて、「磐田の棋理」という小説を書きました。引退間近の中年棋士が、初めての女性プロ棋士を目指す女流棋士や将棋を始める中学生と交流するうちに、かつての情熱を取り戻しタイトル戦に挑む話です。

将棋と小説には共通点があるように思います。
それは、正解を積み重ねることによって結果が大きく異なることです。
将棋と小説には無限の可能性があり、絶対勝てる方法も必ず名作を残す方法も存在しませんが、要所要所には答えがあります。
最近の対局では、AIによって将棋の最善手が表示されます。AIに優劣があるので絶対ではありませんが、正しいと思える手を指し続けることで勝率を高めることができます。
詰みに至る道が見えているかのように藤井さんの指し手はぴたりとはまっていき、最後は相手の玉を追い詰めます。

名作を残す必勝法はないですが、言葉の正解はあると思っています。自分の思う感情、頭に描いている場面を完璧に表現できる言葉がどこかにあるはずです。
自分の心情にぴたりとはまる言葉が見つかったときは嬉しいですね。
読んでいる人はあまり気にしていないと思いますが、その場面にはまる一言を見つけるために、時には一日中考えていることもあります。
考えた分、見つかったときの喜びは格別です。

将棋は一手ずつの積み重ねで、勝負が決まります。
小説も同様で、言葉と真摯に向き合う作業の積み重ねが全体のクオリティを決めると思っています。

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