会社員時代は、スタッフやお客様の前で話す仕事が度々ありました。講演の依頼もありましたし、結婚式の主賓の挨拶も何十回とやりましたね。
小説家になって、大勢の前で話すことは幸いありませんが、取材はいくつかありました。
大勢の人前で話すことは大嫌いでしたが、ずっとやっているうちに慣れてしまいましたね。良かれ悪しかれ、大抵のことに人は順応しちゃうんです。上手いかどうかは別にして。
最初はもっと下手くそでした。一番ひどかったのは、最初の講演です。六本木ヒルズの49Fにある巨大ホールで何百名ものお客様の前で業務について説明する機会がありました。
大きなイベントだったので、時間内で簡潔に伝えられるように、原稿を作って一字一句暗記しました。
これが、まずかったです。原稿を覚えると安心できそうですが、棒読みの感じになってしまい説得力がありません。つい早口にもなってしまいます。
一番悪いのは、原稿を途中で忘れてしまうと、言葉に詰まってしまうことです。暗記していると、途中の語句を忘れてしまうと、次の語句が出てこなくなるのです。
その講演は大失敗に終わりました。
そこから学んだのは、「原稿を用意しない」ということです。原稿を用意しないことで、オーディエンスを向いて語りかけることができるようになります。
原稿がないと何を話したら良いかわからずパニックになりそうですが、原稿の代わりに「箇条書きのメモ」を用意するようにしています。
話す内容を箇条書きに記して、そのメモだけを覚えるのです。メモだけなら簡単い覚えられますし、たとえひとつ忘れても次の話題に移れば良いのです。
メモにあるキーワードに沿った話をその場で作ってオーディエンスに語りかけることができます。
人間の脳というのは不思議なもので、箇条書きのメモを覚えておくと、そのキーワードをもとに話す事柄を無意識に考えてくれるようです。