ネットのコンテンツは無料?
インターネットの草創期、ネットのコンテンツは無料なのがほとんどだった。入金システムが確立していなかったこともあり、ニュース記事にお金を払うことはなかった。
だけど、現状は違う。無料で全記事が参照できる新聞サイトはほとんどない。日経新聞は全ての記事を参照するのに月額4,277円、朝日新聞は月額3,800円かかる。
当たり前だけど、記事を書くには労力がかかり、コストが掛かっている。当初は自社の先進性をアピールし、紙媒体の購買へ誘導するために無料で新聞記事を提供していた。コストは紙媒体での売上でカバーできていたが、新聞が売れなくなってきて、コストを補填できなくなってきた。そこで一部記事を有料化に踏み切った。
新聞業界で電子化に最も成功したのは、米国のニューヨークタイムズと言われている。電子版の有料読者は500万人を超えていて、紙媒体と合わせて540億円の売上がある。コロナ禍で有料購読者数が伸びていて、駅などで販売している紙媒体の減少を補っている。アメリカでは自宅への配送よりも街角のスタンド売りが一般的なので、外出が制限されると販売に大きな影響が出たが、電子版はその影響を受けない。
新聞とは正反対のゲーム
同じネットのコンテンツでも新聞とは異なり、ゲームの世界は「無料」が目につく。大流行したAong Usは原則無料で遊ぶことができる。PCだけではなくスマホ、Nintendo Switchでの利用も無料だ。広告が邪魔をすることもない。唯一お金を払える手段が「コスチュームを買うこと」だけだ。コスチュームは見た目だけで、ゲーム内容には一切影響しない。
それでもAmong Usは月間50億円以上の売上があるといわれている。
新聞とは正反対でもビジネスが成立しているのは利用者数の違いだ。Among Usはダウンロード数は全世界1億回を超えている。日本人がターゲットの新聞とはマーケットの大きさが異なる。
ほとんどのコンテンツを無料で提供し、一部のユーザーが課金してくれることで成立するビジネスをフリーミアムという。フリーミアム・モデルが成立するためには無料ユーザーの裾野が広いことが必要だ。数多くのユーザーが集まることで、その中の一部ユーザーが課金してくれるだけで、多くの収入になる。ユーザー数が少なければフリーのお客様へコンテンツやサービスを提供する資金が集まらない。人数が多ければ多いほどそういったユーザーが出現する可能性が高まる。
ユーザーが多いと課金するモチベーションも増す。誰もいない場所でコスチュームを変えても意味がないし、他ユーザーに勝つために課金してアイテムが欲しくなる。
有料と無料のバランス
Among Usみたいに大勢のユーザーが集まれば、ほとんどが無料ユーザーでもビジネスが成立するが、他のコンテンツではなかなかそこまで集客できない。
それでも収益を上げるためには、無料コンテンツを減らして有料コンテンツを増やすしかない。日経新聞は有料限定記事を毎月10本まで無料で読むことができる。以前は確か毎月20本まで読めたが、売上を伸ばすためか無料で読める記事を制限し始めている。
日経のように無料で読める記事を減らせば、ユーザーが離れて他のコンテンツへ移動してしまう危険はある。ただ、日経は他の新聞とは異なり、経済新聞として独特のポジションを占めているので、読者が他の新聞サイトに移らないと踏んだのだろう。
日本では、朝日新聞以外にも読売や毎日など一般全国紙が複数あるので、有料記事を増やせば、他紙に読者が移りやすい。2021年3月期の朝日新聞は441億円の過去最大の赤字となった。コロナ禍で広告収入が減っているのもあるが、紙媒体の読者数の減少をネットの課金では補填できていない様子がうかがえる。
広く薄く課金できるサブスクが必要
無料コンテンツばかりでは儲からない、有料コンテンツを増やせばユーザーが減る。では、どうしたら黒字化できるのだろう。
一つの解決策は、広く薄く課金対象者を増やすことだろう。紙媒体と同じように月額4,000円払えと言われても多くの読者は尻込みしてしまう。他のサブスクと比べても圧倒的に高い。
1000円未満なら払っても良い読者も多いと思う。朝日新聞には月額980円で月300本の有料記事を読むことができるシンプルコースがある。どれだけユーザーがいるか分からないが、かなり前から存続しているコースなので、一定数のユーザーがいると思われる。
Notesや文春のように、興味ある記事に100円から300円程度を課金するモデルもあるが、月額課金ではないと売上が安定しない。
もう一つ解決しなければならないのが「ヤフー問題」だ。日本のポータルサイトではヤフーが圧倒的に強い。多くの新聞社がヤフーにニュースを提供している。ヤフーが新聞社に支払っている報酬は非常に低いと言われている。地方紙の相場は1PV当たり0.025円だそうだ。1万人が記事を参照しても250円にしかならない。
だったら、ヤフーへの記事提供をやめてしまえば良いのだが、そうすると自社の記事は一切読まれなくなるし、自社のブランドが埋没する。現時点でのヤフーの影響力を考えると、それはネット上での死を意味する。
かといって、ヤフーで無料記事が読めてしまえば、自社サイトで有料記事を読もうとは思わない。この状態を変えないと、有料記事へのシフトは進まない。やはり、安いコースで集客して少しずつ有料読者を集めて影響力が強くなったら、ヤフーへの記事提供の中止にもっていくのが解決策になると思う。
新聞社の経営が傾いてくると、無料記事の配信は難しくなる。日本では一般全国紙が他国に比べて多い。宅配が充実している日本は紙媒体の新聞がネット時代でも生き残ってきた。ライバルが多いので、ニューヨークタイムズのように一気に有料記事へ移行はしづらい。
そうなると、月額1000円未満で広く薄く課金するサブスクモデルが生き残るために必要なのだと思う。