社長交代
トヨタ自動車は、4月1日付で豊田章雄社長が会長に、佐藤恒治氏が社長に就任すると発表した。創業者一族である豊田社長がなぜ退くことになったのか考えます。
EVへのシフト
本人が言っているように豊田社長は自動車が大好きだ。彼が言う自動車とは、従来からのガソリンエンジン車であり、レースで自ら運転するほどの車好きだ。
だが、時代は環境保護の名の下にガソリン車廃止、EVへ急速に動いている。豊田社長は、ガソリン車も水素自動車もEVも「全部やる」と公言して、豊富なEVのラインナップを発表したが、現在販売しているEVの車種は1種類だけで、台数も微々たるものだ。
口では「EVもやる」と言っているが、ガソリン車への愛着を捨てているようには見えない。豊田社長が推す水素自動車も、車内構造はガソリン車に似ていて、雇用のためにもがガソリン車の産業構造を生き残らせるために水素自動車を推進しているように思える。
だが、現在のトヨタを取り巻く情勢はそんな悠長なことを言っていられるものではない。テスラをはじめ中国のEVメーカーがシェアを急速に伸ばしており、世界トップクラスのシェアをもつトヨタといえども安穏としていられない。
自分ではこれ以上EVにシフトできないから社長を交代し、新たなリーダーのもとでEVシフトを加速させるつもりだと思われる。
長期政権
豊田社長は現在66歳。孫正義社長より高齢だ。社長に就任してすでに14年が経過している。長期政権が必ずしも悪くはないが、豊田社長は創業家の出身だ。ただでさえ声が通るのに長らく社長の座にいたら、どうしても周りにイエスマンが増えてくる。
世界的に成功の目が見えない水素自動車の開発は豊田社長の意向が大きいと言われる。
致命傷にならないうちに、本人が自身の限界を察して退くのはさすがだと思うが。
財界活動
豊田社長は会長に就任したのちに、財界活動に精を出すという観測がある。今の日本企業は、数十年前と比べて脆弱になってきている。かつて自動車産業とともに隆盛を誇っていた電気通信業は見る影もない。
日本に残された数少ない世界に誇れる産業が自動車産業だ。その自動車産業ですら政治の停滞や少子化もあり、危機的状況に恐れがある。
日本企業が世界で生き残るために、政治と財界を改革していく必要がある。その旗振り役を日本で最も力がある企業の会長として、豊田氏が行っていくのだろう。
佐藤氏の存在
今後社長に就任する佐藤氏は53歳で、役員の中で最も若く、いわゆるヒラ役員だ。エンジニア上りで、長年プリウス、レクサスの開発に携わってきた。今後、トヨタを改革するには打ってつけの人物だ。
創業家出身ではないので、豊田社長ほど権力はないだろうが、その代わりに佐藤氏は過去に培った人脈を用いて、集団指導体制にちかい若い世代を巻き込んだ経営を実施しそうだ。
ガソリン車からハイブリッドへの移行を主導してきた佐藤氏が、今度はハイブリッドからEVへ移行してくれるのでは? と期待されている。
どこまでできるか?
トヨタの危機感は相当なものなのだろう。EVシフトに躊躇しているうちに、世界の市場は大きく変わってきている。EVへのシフトを疑う専門家は世界では少数派だ。EVへのシフトがいつ起きるかではなく、どれぐらいのスピードで加速していくかが焦点になってきている。
日本の電力事情では電力不足に陥る、日本のハイブリッドを排除したい欧米メーカーの謀略だ、などEVシフトへの反論・懸念はあるが、世界の流れはもう固まっている。
ガソリン車への愛着がある豊田社長のもとで遅れをとった印象はあるが、自らの限界を感じ退任し新しい社長を据える豊田社長の決断力はさすがである。
4月以降、どのようにトヨタが変わっていくか注目したい。