TVerで同時配信
4月11日から、テレビ朝日とTBS、フジテレビ、テレビ東京が地上波放送とインターネットによる「同時配信」を開始すると発表した。日本テレビは昨年10月から開始しているので、これですべてのキー局が同時配信を行うことになり、プライムタイムの人気番組はテレビがなくてもネットでもライブ視聴できるようになる。
Amazon PrimeやNetflixなどネット配信に押されていた地上波テレビがネットを無視できなくなった結果、ついにライブ配信を開始する。
視聴者にとっては選択肢が増えて嬉しいが、これにより困るのは地方局だ。
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困難な時代に入る地方局
TVerがライブ配信することで地方局はより困難な時代に入る。地方局のほとんどの番組はキー局の番組を放送していて、キー局の番組の間に地方独自のCMを販売している。ネットで配信する番組にもCMは流れるが、それはキー局による全国向けのCMだ。TVerで視聴する人が増えれば、地方局が放送する視聴率は落ち込むことになる。視聴率が悪ければCMは売れなくなり、地方局の収入は減り経営が傾くことになる。
キー局もそんなことは百も承知だ。それでもネット配信業者に負けないようにTVerを押し進めるしか方策がなかった。
地方局の光明
今はまだプライムタイムの人気番組だけを同時配信しているが、対象の番組がさらに増加する可能性はある。NHKはすでに24時間ライブ配信をNHK+で実施している。
このままでは、地方局の存在価値がなくなり、いずれ消滅してしまうのだろうか。
ひとつの光明が、TVerでの地方局制作の番組配信だ。地方で放送している番組の多くはキー局のものだが、地方局制作の番組もいくつかある。
毎年視聴者が多い番組を表彰するTVerアワードの特別賞に今年はTSKさんいん中央テレビ制作の「かまいたちの掟」が選ばれた。TSKさんいん中央テレビは島根の地方局だ。「かまいたちの掟」は全国ネット以外の番組で一番再生数が多かった。TVerで再生されればCMが流れ、その番組を制作した局に広告料が入る。
かまいたちは全国レベルの人気タレントだが、このように人気タレントが地方局の番組に出演しているケースはよくある。売れっ子の千鳥は広島や埼玉の地方局に出演しているし、ジャニーズタレントも地方へ進出している。
コロナ禍で番組に出演するタレントの数が減っており、有名なタレントでもなかなかスケジュールが埋まらない。
地方局のタレント出演料はキー局よりも安く設定されているが、それでも遊んでいるよりましだし、地方局への出演でもTVerで配信されれば全国で視聴されるので、自分の人気を高めることができる。
地方局よりも問題は地方企業
地方局はキー局の番組を放送すれば収入になるし、「かまいたちの掟」のように人気番組を制作すればTVerでも広告料が入る。
今後収入は減るだろうが、それでも地方局は生き残るだろう。地方では地方局というのは超優良企業で、地銀や地方新聞と並び地方経済を主導している。行政とも協働しているケースが多い。
地方局よりも問題なのは地方企業かもしれない。TVerがライブ配信を進めれば、地方局はテレビCMを打てなくなる。地方企業にとって、地元へ訴求できるテレビCMは希少な存在だ。ネット広告に出稿すれば良いと思いがちだが、不特定多数が対象のネットは地方企業の顧客とは合致しない。タウン誌という選択肢もあるが、読者数は少なく、視聴者が多いテレビCMは地方企業にとって実は貴重な広告媒体なのだ。地方局のCMはキー局よりもはるかに安く、広告料は2けた違うといわれる。テレビCMが打てなくなることが、地方企業の成長を妨げることになる。
今後は、地方局のテレビCMに代わるローカル向けのネット広告が開発されていくかもしれない。