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「悪い円安」とは何か?IT企業への影響は?

5年ぶりの円安

現在(2021/11/24)1ドル115円台と4年8か月ぶりの円安水準で取引されている。

為替はさまざまな要素で変動するし、政治や経済状況と密接に関係するので、円安だから良くないとは一概に言えないケースもあるが、今回の円安は「悪い円安」と言われている。

どうして「悪い円安」なのか、どのような影響がIT企業にあるのか考えてみます。経済と為替にはそこまで詳しくないので、間違えている箇所がありましたらご指摘くださいませ。

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悪い円安とは?

民主党政権時代に続いた円高を、安倍政権と日銀が連携して量的緩和を行い、円安に導いたのは記憶に新しい。あの時は、日本の国力以上に円が強く輸出の支障になっている、と円高が是正されたとして市場は好意的に捉えた。その結果、8千円台だった日経平均は2万9千円まで持ち直した。円が安くなれば、円換算の日経平均が上がったように見える要素はあるが、当時「過度な円高是正」だったとして、「悪い円安」とは言われなかった。

だが、本来は自国通貨の価値が下がることを喜ぶのは変だ。通貨の価値は発行している国の力を意味している。自国通貨の価値が下がれば、国の資産が相対的に目減りすることになる。外国から輸入するにも割高になるから、資源がない日本の場合は原油や小麦などを外国から高値で買わなければいけなくなるので、当然国内の物価は上がる。現に消費者物価指数は上昇しており10月はプラス0.1%を記録した。

現在の円安が「悪い円安」と言われているのは、日本の国力低下を反映しているからだ。コロナ禍の自粛によるマイナス成長、原油高と半導体不足による輸入額の増加が、日本の国力を低下させ、為替に日本の国力低下が反映されているというのだ。

他国もコロナの感染上昇に悩まされているが、欧米ではすでに経済は正常化されている。ワクチン接種が進んでいるので、感染者増加しても昨年のように重症者が増えていない(ドイツなどで医療逼迫の兆しが見られているので、今後は予断を許さない状況ではあるが)。一年半のロックダウン疲れで、ここからまた大規模なロックダウンは決断しづらい。各国のサッカー中継を観戦してもわかるが、多くの人はマスクをつけておらず、大声をあげて観戦している。昨年のような自粛状態には戻れない。マスク装着やワクチン接種の強制に反対するデモがヨーロッパ各地で起きている。

日本はワクチン接種が進み国民の80%(対象の約90%)に到達しようとしており、マスクの装着も続いているので、欧米や韓国のように感染者は拡大していない。だが、コロナで疲弊した国力を回復するに至らず、インバウンド需要はないし、原油高・半導体不足がボディブローのように日本経済へダメージを与え続けている。

半導体不足のせいで、自動車工場が一時的に閉鎖し、人気商品の出荷が遅れる事態が起きている。普通の国産の自動車でも納期が半年後というのはザラだ。

このような経済状況下でも、日本政府の対策も弱い。アメリカが総額100兆円に上るインフラ投資を決めたのに対して、日本は55兆円の経済対策を決めたが、その中身は10万円を子育て世代に渡すという経済の活性化にはあまり寄与しない政策で揉めている始末。

原油高についてはアメリカの「命令」で掟破りとも言える原油の国家備蓄の放出を決めたり、半導体メーカーの台湾TSMCの熊本への半導体工場進出に税金を投入したりと、一応対策を打ち出してきたが、原油備蓄放出の効果がでるかは不明だし、熊本の工場が稼働するの2024年末だ。その頃には半導体市場がどのような状況になっているかは不透明だ。

半導体市場は過去にも拡大と縮小を繰り返しており、今はコロナからの復興で高まった半導体需要がこの先もずっと続く保証はない。

このように、日本の国力低下が可視化されてきた現状が反映された円安は、日本にとって「悪い円安」といって良いと思う。円安により半導体や原油の円でのコストが増大し、製品が値上げすると、買い控えが起きる。物価が上がってもコストも上がっているので企業の利益は増えず、また値上げした製品が売れないので売上も伸びない。企業業績が悪化すれば、給料もあがらず消費も停滞したままになる。

円安が経済状況の悪化を生み、不況の中で物価上昇が起きれば、教科書にあるような「スタグフレーション」が進行する可能性がある。

為替の変動は、金利が大きく影響する。コロナ禍の不況では各国とも金利を抑えて量的緩和をおこなってきたが、コロナの収束に合わせてインフレを防止するためにアメリカをはじめ欧米各国は金利を上げようと計画している。ところが、日銀は質的金融緩和の維持を今でも公約している。金利が上昇すれば、ただでさえ低い国内需要がさらに低下する恐れがあるからだ。また、金利が上昇すれば大量にを発行している国債がデフォルトになる危険性が高まり、国家破綻の道まで見えてくる。日銀が容易に金融緩和を是正して金利を上げることができないのは理解できるが、「悪い円安」を止める手段を日本が持っていないことになる。

IT企業への影響は?

IT企業と言っても国内重視か輸出重視かによって為替の影響度合いは異なる。ただ、今回のように原油高だと原材料を輸入して加工製造するメーカーはいずれもダメージを受けている。円安になれば輸出競争力が高まるが、コスト増により利益幅は小さい。

賃金上昇がなく物価が上がる不況では国内需要は伸びず、内需企業の業績も上がらない。

IT企業に限らないが、原材料が高騰している状況下での円安は、内需企業・輸出企業いずれにも悪影響をもたらす。

どうすれば良いのか?

為替はマクロ経済の話なので、一企業ができることは少ない。対策としては、為替の変動をヘッジして、原材料を仕入れることだが、コロナ後に経済回復(という名目のもと)により原材料の高騰がすでに起きてしまっている現在では、これから対処することができない。

製造業だけではなく、サービスやソフトウェア開発もおこなっている企業はそちらに重視する手はある。不況下では賃金は上がりにくいので、企業としては人を雇いやすいし、原材料を必要としないソフトウェア開発なら円安の影響を比較的受けにくい。

大事なことは、現実以上に悲観的になり、投資を抑えることで、不況を悪化させることだ。原油高については各国が備蓄放出で歩調を合わせている。半導体不足も工場誘致という対策は打たれている。

原油高も半導体不足も「コロナ後の経済回復による需要急増」が原因だとしている。それは事実ではあるが、「だから値上げしても仕方がない」とみんなが納得するから、それに乗じて需要の増加以上に値上げしているきらいがある。経済を動かすのは「空気」でもある。多くの人が不足していると危機感を抱けば需要は高まり価格は高騰する。

時が経てば市場は冷静になり、各国協調のようなトピックスが逆トリガーとなって値下げに転じることがあるかもしれない。

極端に悲観的にならず、苦しくても長期的な視点を維持することで、冷静に事態の推移を見守るのが何より大事だと思います。

IT関連のブログをほぼ毎日更新していますが、本業は小説家です。
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