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トヨタの社長がApple Carに「40年の覚悟を」を迫る誤謬

40年の覚悟

日本自動車工業会(自工会)の会長として、トヨタ自動車の豊田章男社長が、Appleの自動車業界の参入について「作ったあとに40年、いろんな変化に対応する覚悟は持て」と発言した。

「自動車という商品は、材料、部品製造、車両製造、そして廃棄と、多くの流れ(がある)」と説明した。

異業種参入について、お客様の選択の幅が広がると歓迎の意を表したが、本音を言えば「自動車の製造はそんなに甘いものではない」ということなのだろう。

トヨタ社長のこの発言が妥当なのか考えてみます。

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どうして40年なのか

豊田社長はどうして「40年の覚悟」が必要と言ったのだろう。電子端末よりも自動車は巨大で、部品も多い。自動車を製造するには、大規模な工場が必要だし、大量の部品を製造する部品メーカーとサプライチェーンの構築が必要になる。

うまくいかないからと、すぐに撤退してしまえば、部品メーカーやサプライチェーンにも迷惑がかかる。

また、自動車は生命に関わるものだ。不具合が出た場合のリコール、新しい法律や規制への対応、電子端末よりもライフサイクルはかなり長いので、メーカーは長期間に亘り整備する体制を構築しと部品をストックしておく必要がある。

自動車製造販売は環境への影響も甚大だ。金属やプラスティックを大量に消費し、オイルなども環境破壊に繋がる。環境を汚すことなく廃棄・リサイクルまで責任を持って行うのがメーカーの責務になる。

以上を踏まえて、豊田社長は自動車製造販売には「40年の覚悟」が必要だと説いたのだと思う。

新しい考え

豊田社長の主張は正しいのだろうか。確かに、現状の自動車産業の慣習を踏まえれば、40年の覚悟が必要だろうが、同じことをしていてはイノベーションがは生まれない。

自動車は決して安い製品ではない。原料や製造だけではなく、リコールなど長期的な対応にかかるコストが価格に含まれている。

もちろん、法令を遵守しないといけないし、環境は保護しないといけない。ただ、同じことをしていたのであれば価格は下がらず、性能も向上しない。

Appleは何もコメントしていないが、Appleが参入するのはEV(電気自動車)になるだろう。過去のレシプロエンジンとはその時点で異なり、運用方法も変わってくる。すでにテスラが実行しているようにシステムアップデートをリモートで行うことで性能を更新することが可能だし、EVなら部品点数もレスプロエンジンよりも少なく済む。

販売形態も変わってくる。例えば購入するのではなくカーシェアリングのようなサブスクも考えられる。AIによって会員の使用状況を予測して、効率的な配車を行うなど、ITと融合することで低コストな運用が可能になる。

水素自動車がイノベーションなのか?

トヨタはEVの普及に懐疑的だ。EVの開発も行っているが、得意のハイブリッド車の他に水素自動車の開発に注力している。水素自動車は、二酸化炭素の排出を減らすことはできるが、全国に水素ステーションを設置しないといけないし、当然環境に負荷が掛かる。そもそも水素を製造するのに現状は電気が必要になる。

豊田社長は会見で、電気自動車を普及させるなら発電所を増強しなければならないと主張していた。このままでは国内では自動車を製造できなくなり、雇用を失う恐れがある。日本のために官民協働で自動車産業を支えなければいけないという。

EVの時代になって欲しくないと言っているようで、日本自動車産業のトップである自工会の会長の発言として妥当なのだろうか。

EVの時代になると、過去のレシプロエンジンのノウハウ・特許は使えず、部品点数も少ないので、今までのサプライチェーンを維持することはできない。他社に対するトヨタの優位性を失うことになる。そのためにトヨタはEV一本ではなく、ハイブリッドを残しつつ水素自動車の開発を続けているのだ。

だが、そんなことはユーザーには関係がない。安くて便利な自動車を顧客は選択する。

世界の潮流はEVは決まりつつある。トヨタのライバルであるフォルクスワーゲン社は2025年までにEVを年間100万台を製造すると発表している。中国の自動車メーカーは以前からEVに軸足を移している。仮に環境に優しい水素自動車の量産化に成功しても、日本のトヨタ社のために他国が水素ステーションを設置してくれるとは考えづらい。

いくらトヨタが次世代自動車は水素自動車だと主張しても、他国とメーカーが協働してくれなければ絵に描いた餅だ。

異業種の参入が自動車産業を救う

豊田社長は、「40年の覚悟」を異業種参入する会社に説いたのは、自社の事業領域を守りたい意図があったのだと思うが、Appleのような異業種参入こそが業界を活性化し、新たなイノベーションが生まれる。

既存のサプライチェーンや自社の強みに固執して水素自動車の開発を行うよりも、Apple Carが人気を博して、EVが主流になり、EVを支える発電設備を国と企業が協働して行う方が環境にも顧客にも優しいことにならないだろうか。

ハイブリッドと水素自動車に固執する姿は、ガラケーに執着してAppleや海外メーカーに敗北した日本の携帯メーカーをどうしても想像させる。

Apple Carがいつ登場するわからないのだから、機に先んじてトヨタがEVへ舵を切り行政を動かす方が顧客にとっても環境にとってもハッピーな気がする。

 
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