Amazonとドコモがタッグ
NTTドコモ(以下、ドコモ)は、「ギガホ」の契約者に「Amazonプライム」の年会費(4,900円)を一年間無料にするサービスを発表した。すでにAmazonプライム会員の人には契約期間が一年間延長される。
大容量メニューではない「ギガホライト」契約者はキャンペーンとしてAmazonプライムが同じく一年間無料とする。
また、Amazonのサイトでd払いを使った場合、dの還元率を1%から5%に引き上げるキャンペーンも同時に実施(12月から2020年3月まで。1ヶ月3,000円ポイントが上限)。
ざっくり言えば、ドコモユーザーに「Amazonプライム」を1年間プレゼントするということだが、ドコモとAmazonの社長が並んで会見するという大仰な発表となった。
両社の思惑を考察します。
- Amazonとドコモがタッグ
- Amazonとの協業はau+Netflixへの対抗?
- 新たな「抱き合わせ料金」
- Amazonにとっての恩恵
- 次に起こるのはAmazonプライム会費の値上げ?
- 別サービスとの抱合せも辞めるべきでは?
Amazonとの協業はau+Netflixへの対抗?
ドコモは、dTV、dミュージック、dショッピング、dマガジンと、Amazonとがっつり競合するサービスを抱える。特にdTVは会員数が500万人を突破し、Amazonプライムに対抗できる力がある。
それでもドコモがAmazonと協業した理由は、auとNetflixの提携への対抗が理由の一つだろう。auは動画配信サービス「Netflix」と提携し、Netflixのベーシックプランと回線使用料金を含めたパッケージを出している。
NetflixとAmazonプライムは動画配信サービスの2大巨頭なので、auに対抗するのはAmazonと組むしかなかったと言える。
新たな「抱き合わせ料金」
もうひとつの大きな理由は、改正電気通信事業法の改正による端末代金の値引き額の制限だ。10月から、値引き額の上限が2万円までに制限されている。
今までのように携帯電話の端末代金と長期契約料金を抱き合わせして販売することが難しくなった。
他社と競争するためには、携帯電話料金を下げることになるが、値下げは激しい価格競争を呼ぶ。現在、3大キャリアの回線使用料金は、ほぼ横並びだ。期待されていた第4のキャリア「楽天モバイル」がライバルになるのは数年後になりそうだ(ならないかも)。
また、回線使用料金を下げると、ドコモが回線を卸しているMVNOへの回線使用料の値下げにも繋がりかねない。そうすれば、今でも格安のMVNOはさらに値下げを行い、価格下落のネガティブスパイラルが始まる可能性もある。
そこで、ドコモは、「実質値下げ」となる「Amazonプライムをプレゼント」することにしたのだろう。
使用量に応じてドコモはAmazonにAmazonプラム料金をユーザーの代りに支払う。
Amazonプライムを利用するユーザーにとってはお得に感じるが、利用しないユーザーには恩恵がない。
Amazonにとっての恩恵
ドコモの思惑はわかったとして、Amazon側はどうだろう。Amazonとしては、日本のトップキャリアであるドコモと提携することで、Amazonプライムの会員を増やすことができる。
Amazonは公式発表をしていないが、日本のAmazonプライム会員数の割合はアメリカ本国より低いと思われる。アメリカより国土が狭く、宅配サービスが充実している日本では、「お急ぎ便」サービスがアメリカよりも恩恵を実感しづらい。また、レンタルビデオが発達しているので、動画配信もアメリカよりは当初振るわなかった。
それでも日本国内の会員を増やそうと、日本はAmazonプライムの会費はアメリカに比べて安く設定されている(日本は年額4,900円。アメリカは119ドル、日本円で約13,000円)。
これは想像だが、Amazon日本法人は、USが本社よりAmazonプライムの会員比率を増やすようにプッシュされているのかもしれない。
Amazonプライムの会員を増やすことは、Amazonの重要な施策だ。Amazonプライムの会員数増加は、Amazon全体の売上に直結する。会員はAmazonのサイトを訪問する回数が増え、買い物頻度も高くなるからだ。
Amazonプライムの会員数を増やす手っ取り早い方法が、約8000万人のユーザー数を誇るドコモとの協業だったのだ。
次に起こるのはAmazonプライム会費の値上げ?
この提携によって、Amazonプライムの会員数が飛躍的に伸びると予想される。ドコモユーザーは8000万人いて、ギガホ・ギガホライトユーザーは、今年度末には1700万人に達する。これらのユーザーが無料でAmazonプライムの会員になることができる。
アメリカ並の会員数になるかわからないが、会員数増加の目的を達成したAmazonジャパンが、Amazonプライムの会費を値上げしてもおかしくない。そうなれば、被害を被るのはドコモユーザーではない、普通のAmazonプライム会員だ。
ドコモ契約者もAmazonプライムを利用する人は得をするが、そうではない人に恩恵はない。
Amazonプライムの付与ではなく値下げなら、ドコモの契約者でAmazonプライムを利用しないユーザーは、値下げの恩恵を受けるはずだった。
別サービスとの抱合せも辞めるべきでは?
以上、見てきたように、別サービスとの強制抱き合わせ商法は、ユーザーにとって不利益を生じる可能性がある。ドコモユーザーがオプションでAmazonプライム会員になれるなら問題はないが、使用の有無に関わらず、強制的に会員扱いにしてしまうのは問題がある(一応、サービス開始には申し込みが必要だが、無料なので、とりあえず申し込んでおく人も多いと思う)。
法律で禁止しろとは言わないが、ユーザーの選択肢を奪う抱合せ商法は是正してほしい。