上限1,000円の是非
携帯電話の複数年契約の解約金を上限1,000円にするというニュースがでてから、多くのライターがこの事の是非について論じているが、多くは否定的だ。
「政府が口出しすることではない」「通信料金が高くなるだけ」「また新しい通信プランができて混乱する」などが主な理由だ。
政府が解約金に上限を設定したい理由は「各キャリアの競争を促して、通信料金を値下げすること」だ。解約金が値下げになれば、ユーザーは他のキャリアへ移りやすくなるので、各キャリアはサービス品質を高めるか値下げをして他キャリアと競争する必要がある。
日本の通信料金が高いのか?
「日本の通信料金は品質に比べて安い」と大手キャリアの人間はよく言う。だが、各家庭の携帯電話料金の平均は10万円を超え、家計全体の4%に迫る。現代の日本では家計を圧迫している金額だ。ここを政府は問題視している。
問題は横並びの金額
携帯電話の解約料は大手3キャリアとも9,500円。これ以外にも各社横並びの料金はいくつもある。
特にシェアが大きいドコモとauは同一料金が目立つ。
1GB未満のデータ容量
- ドコモ ギガライト:2,980円
- au 新auピタッとプラン:2,980円
5分内の通話し放題
- ドコモ:700円
- au:700円
音声通話かけ放題
- ドコモ:1,700円
- au:1,700円
大手といっても会社によって財務体質も固定費も異なるはずなのに料金が同じになのは奇妙だ。 価格競争を避けて、横並びの価格設定をしていると言われても仕方がない。
最も多くのユーザーを抱えるドコモとau間に競争がなければ、価格も下がらない。今回の一連の政府の施策は、ユーザーを流動化させて価格競争を促すことにある。今回でてきた上限1,000円も同じ目的である。
競争がしづらいインフラ企業
では、他のキャリアに移る敷居が下がれば、ユーザーの流動化が起きて価格が安くなるかというと、そう簡単でもないところが難しい。携帯電話キャリアは全国で安定した通信品質を保つために莫大の投資を行っている。
いくらユーザーが流動化しても、国内で選べるキャリアは3つしかない。他の商品と異なり選択肢が少ないのだ。MVNOを選ぶ方法もあるが、MVNOは3キャリアの回線を借りているので、固定費は3キャリアの料金設定に依存する。
そこで楽天モバイル
長く続いた3キャリア体制を変えようとしているのが楽天だ。楽天は年内に携帯電事業を開始するために、新たな周波数を取得している。後発である楽天は、おそらく大胆な価格戦略に打って出るだろう。
今のタイミングで上限設定の話が出た理由は、ここにある。おそらくよっぽどのパラダイムシフトがない限り登場しない新しいキャリア登場のタイミングで、ユーザーを一気に流動化させて、価格競争を起こそうとしているのだ。
楽天が魅力的な携帯電話事業を始めても、長期契約の途中解約料金の9,500円を支払ってまで移るユーザーは少ないだろう。
楽天の携帯電話事業開始を千載一遇のチャンスと政府は捉えて、あの手この手でユーザーを流動化させようとしているのだ。
(本来望ましいことではないが)菅官房長官の圧力により、ドコモとauは「4割削減プラン」をつくったが、実際に4割下がるユーザーはごくわずか、新規携帯電話購入時のベネフィットがなくなるので、人によっては値上げになる。
これでは、携帯電話料金の支払いも減らない。この状態に業を煮やした政府は、楽天モバイルのサービス開始を期に、政府が上限を定める禁じ手を使ってでも、ユーザーの流動化を図ろうとしているに違いない。
莫大の投資が必要で、プレイヤーが少ないインフラ企業は、横並びの価格を設定する傾向にある。それが高止まりの要因だし、少ない企業が独占しやすいので、電気ガス水道などのインフラ関連の値上げは自治体・政府の許可が必要だ。だが、携帯電話は生活に必須ではないという理由で、許認可制になっていない。実際には、スマートフォンは国民の生活の無くてはならない物になっているにもかかわらずだ。
ユーザーが流動化するかどうかは、結局はユーザーにかかっている。ユーザーが行動しなければ、携帯電話料金も変わらない。楽天モバイルの通信品質・安定性は不透明だが、正しい情報を入手し、他キャリアやMVNOと比較して、過去にとらわれずに自分に最適なプランを選ぶことが、企業間の競争を生み、価格競争を起こすことになるだろう。
すべてはユーザーにかかっている。