Orkシリーズ三部作
筆者の小説の中で唯一のシリーズ作品が「Orkシリーズ」です。一番最初に出版したのが「箱の中の優しい世界」で、その前日譚が「Ork-2006-」、今年になって「箱の中の優しい世界」の続編「ニューバースの夜明け」を出版しました。
一番最初に書いたのは「Ork -2006-」です。2006年あたりに書いたので、もう15年以上前になります。
「Ork」が書き終わったときに、なんとなくまだ物語が続いていると感じていて、桜田が生きているラストにしました。
それから、12年後の2018年に「箱の中の優しい世界」を書きました。当時はサトシ・ナカモトが提唱したブロックチェーンが流行していて、その誕生エピソードが面白くて小説にできないかと思ったのが執筆する動機でした。
それから四年後の2022年に「ニューバースの夜明け」を書いたのは、メタバースに興味を持ったからです。
このシリーズは、ITに変革があったときに書くようにしています。「Ork」はファイル共有ソフト、「箱の中」はクラウド、「ニューバース」はメタバースです。
作品中でもITテクノロジーを説明していますが、ここでもう少し細かく紹介したいと思います。
Ork -2006-
表題にある通り2006年が舞台になっています。初代iPhoneが発売されたのが2007年なので、この時代にはスマートフォンがまだありません。
当時話題になっていたのが「Winny」でした。天才プログラマー金子勇さんが開発したWinnyはP2P技術を採用したファイル共有ソフトです。中央にサーバーを置かず、クライアントPC同士が匿名でデータをやり取りする方式は画期的でした。
一方で、GoogleやMicrosoftなどの巨大IT企業がデータを集約し管理していました。クラウドは存在せず、いわゆる中央集権的なシステムがITの中心でした。
Orkでは、エンジニアの桜田がOrkというファイル共有ソフトを開発し、全世界に配布します。ユーザー同士がデータをやり取りしてしまうと影響力が低下してしまうことを恐れたOS開発企業がOrkを潰そうとします。
実際の世界では金子さんは警察に逮捕され、Winnyは公権力によって潰されてしまいます。
箱の中の優しい世界
「箱の中の優しい世界」の舞台は2015年あたりを想定しています。当時はすでにスマートフォン全盛で、IT業界は一気に変わりました。常時通信が可能なスマートフォンはデータをローカルに保持する必要がなく、クラウドにデータを保存するようになります。
よく言われますが、ITの歴史は集合と分散を繰り返しています。通信機能がなかった大昔のパソコンはローカルのハードディスクにデータを保存することしかできませんでした。ネットワーク機能が発達すると、データはサーバー・ストレージで管理するようになります。
Windows 95の発売に合わせてインターネットが発達すると、データは全世界のサーバーに保存され、どこにどのデータがあるか気にしない分散の時代が入ります。
ところが、Googleなどの検索サイト、FacebookなどのSNSが発達し、グローバル企業が自社のサービス経由で個人情報を収集し力を持つようになります。新たな集合の時代です。
「箱の中の優しい世界」は、まさにその集合の時代の話で、当時は個人情報を管理する巨大企業への批判が高まっていました。
そこに登場したのが、新しい分散システム「ブロックチェーン」です。ブロックチェーンは中央のサーバーを持たずに、分散コンピューティングを実現しました。分散コンピューティングの弱点だったデータの正当性を証明するために、データを繋げる点がとても画期的でした。
本作ではサクラダが提唱したボックスチェーンが登場し、クラウド企業との争いが描かれます。
「箱の中」には、まだ実現していないスマートイヤホンが登場します。イヤホンで音声操作ができるイヤホはスマートスピーカーから着想しました。便利そうなデバイスですが、現実化のネックになるのは、バッテリーでしょうね。同じようなことがスマートウォッチでは実現できているので、イヤホンの形状に小型化しても持続使用時間を確保できるぐらいにバッテリーが進化すれば、イヤホも作れるでしょうね。
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ニューバースの夜明け
Orkシリーズの最新作が「ニューバースの夜明け」です。本作を書いたきっかけは、メタバースです。仮想世界であるメタバースについて、セカンドライフの没落を見てきた筆者は当初懐疑的でした。
ところが、色々調べていくと、メタバースが現状を打破する突破口になるかもしれないと思うようになりました。差別や偏見、エネルギー問題、貧富の格差、これらの現実の問題をメタバースで解決することができるかもしれません。
もちろん、現状のメタバースにはそのような実力はありません。メタバースが現実を凌駕するにはたくさんの障壁があります。
そこで、メタバースの上位概念として「ニューバース」を思いつきました。
本作は過去作にはないほど現実に密着しています。物語の世界でもパンデミックが起き、日本経済は沈みゆく巨大客船のようです。この国が抱える問題とニューバースを絡めて物語にしてあります。今議論されている円安や原発再稼働、感染拡大は本作の物語とリンクしているように思えます。
現実の問題を正面から扱うのには賛否両論あると思いますが、この国が現状抱えている問題はかなり深刻だと感じていたので、ストレートに伝わる内容にあえてしました。どうだったでしょうか?
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次回作は?
「ニューバースの夜明け」に続く物語はすでに考えてあります。佐野の子供とか、伏線をいくつか散りばめてありますし、何よりニューバースがなにか? どうやってこの国を救うのか? という問いに対して、本作ではまだ回答を出していません。
いずれ続編を書きたいと思っています。