さよならアイブ
Appleの製品の設計に長年携わっていたジョナサン・アイブがAppleを退職してデザイン事務所を立ち上げるとAppleが発表した。
突然の発表は衝撃をもって受け入れられ、Appleの株価も下落した。今後は新事務所がAppleの仕事を請け負うという発表をそのまま信じる人は少ない。影響力がある社員が辞める時に「今後もアドバイザーとして会社に貢献してくれる」と発表してインパクトを抑えるのは外資企業のよくある手筋だ。デザイン部門の社員の多くはAppleに留まるのだから、アイブがひとりでできることは少ない。
おそらくアイブが今後Appleの製品に表立って携わることはないだろう。
アイブ退職の影響を考察してみます。
ミニマルデザインの行き着く先
20年以上同じ会社で勤めたら辞めたくなるのも自然だと思うけど、退職を決意したときに「Appleでやるべきことは終わった」とアイブは考えたのかもしれない。
アイブのデザインは機能性を全面に出し、デザインのためのデザインではなく、使い勝手・製品のテーマを伝えるためのデザインになっている。よけいなものを削ぎ落としたミニマルデザインと評されることも多く、シンプル・イズ・ベストの原則を守り続けている。
ただ、シンプルにするにも限界がある。フルディスプレイになったiPhoneもiPad Proも、もう削ぎ落とすものはなにもないように思える。Macbookもベゼルを細くする以外に修正の余地がない。キーボードやタッチパッドを小さくして機能性を損なわせるのはアイブが最も嫌うところだ。
これ以上、Appleのデザインを進化させることは自分にはできないと考えたのかもしれない。
サービスのデザイン
iPhoneの売上が低迷している現状、Appleはサービス事業に注力している。この秋にはApple TV+とApple arcadeの2つのサービスが開始する。サービスの主役はコンテンツであり、インターフェイスが重要になる。アイブは、iOSにフラットデザインを導入し、ソフトウェアのデザインも手がけてきたが、コンテンツありきのサービス事業では自分がやれることは少ないと考えてもおかしくない。
退職の影響はミニマル?
アイブがいなくなったAppleのデザインはどうなるだろうか。今までと大して変わらないと筆者は予測する。Appleのデザイン部門は他社と比較してスタッフが少なく30人前後と言われている。少人数で徹底的に議論し、Appleデザインの方向性を決めている。アイブがぬけても、残るスタッフで今までの方向性は維持できるだろう。
一時期アイブが現場を離れたことはあったが、その間もAppleデザインは変わらなかった(串刺し充電するApple Pencilやひっくり返さないと充電できないマウスは、アイブが現場を離れていたから生まれたのではない)。
一方で、アイブがいてもいなくても、Appleのデザインが壁にぶつかっているのは間違いない。筐体を薄くするために開発したバタフライキーボードは不具合が多発し、iPhone X登場から1年半経過するが、フルディスプレイのiPhoneとiPadのデザインが今後どのように進化するのか不透明だ。
デザインの歴史は、振り子のようにいったりきたりしている。マテリアルデザインからフラットデザインへと進化してきたが、そろそろ別のモーメントが生まれても良い時期かもしれない。