好調な任天堂決算
任天堂は、2020年度Q3(2019年4月から12月)の決算を発表した。売上が前年同期比プラス約3%、営業利益がプラス約20%と好調な決算だった。
主力製品であるNintendo Switchシリーズ(以下、Switch)の販売台数は、前年同期比でプラス13%と伸びた。Swtichは登場してから3年目だが、順調に伸びていて、日本だけではなく北米と欧州でも伸びている。
決算の内容をより詳細にみていきます。
販売台数ほど売上が伸びていない理由
販売台数の伸びほど売上が伸びていないのは、Switch Liteによる影響があるからだろう(もうひとつの理由は3DSの販売衰退)。Switch LiteはSwitchより国内で1万円安いので、「一家に一台」から「ひとり一台」への需要喚起には成功しているが、Switchシリーズの平均販売単価は落ちるのは仕方がなく、販売台数ほど売上が伸びないのは自然な流れだ。
販売台数以上に利益が伸びている理由
利益は販売台数以上に伸びている。ひとつはSwitchがマイナーチェンジにより製造コストが減ったからと思われる。Switch Liteの発売開始と同時に既存のSwitchも内部構造をアップデートしている。この変更によりバッテリー稼働時間が伸びる一方で、製造単価が下がったに違いない。
モデル中期から末期にかけて値下げが行われるのは自然なので、製造原価を抑えて利益が伸びているのであれば、大きな問題ではないと思う。
もうひとつは利益率が高いソフトとネットでの売上が伸びていることだ。ソフト販売数は日米欧で前年同期比のプラス26%と大きく伸びている。
従来タイトルの続編である「スマブラ」「ポケモン」だけではなく、特に日本では「リングフィット アドベンチャー」が人気だ。従来タイトルの続編に頼っているという課題を解消するために、「リングフィット アドベンチャー」でひとつ実績が作れた。
Swtich Liteの発売で、3DS向けソフトの開発は停止され、今まで据え置き機とポータブル機に分かれていた社内のソフト開発陣を統合でき、より多くのリソースをSwitchのソフト開発に集中できる体制ができている。新しい体制により、今までの続編ではない斬新なソフトが登場することが期待できる。
任天堂ソフト一極集中の課題は?
Switchというか任天堂の長年の課題である「任天堂ソフトしか売れない」は解消されていない。昨年度の国内ソフト販売台数トップ10のうち、任天堂以外のソフトはPS4の「キングダム ハーツIII」とマイクロソフトの「Minecraft」だけだ。ほかはすべて任天堂のソフトだ。
もはやこの状態を解消するのは難しいと判断したのか、社内のソフト開発力を増強し、自社のソフトで市場が寡占化しても、ハード・ソフトの売上を伸ばす戦略に任天堂も変えてきているようだ。
任天堂の方向性と市場トレンドが合致している間は良いが、たとえば任天堂の姿勢と合致しないよりバイオレンスなゲームが流行るようになると、Switch全体のソフトの売上が下がり、ハードの売上にも影響を与える危険性はある。
ゲーム機以外の取り組みは?
近年の任天堂は今まで培ったゲームIP資産を積極的に用いてゲーム機以外の売上を増やそうと試みている。ゲームビジネスは博打的要素もあるので、安定した経営のための措置だ。
昨年オープンしたオフィシャルストア「Nintendo TOKYO」は入店まで長く待たされるほどの人気が続いている。
今年USJにオープン予定の「SUPER NINTENDO WORLD」も任天堂の豊富なIP資産を活用した例だ。
これらの取組みは、まだはじまったばかり。国内で成功を収めて、その勢いを海外へ広げることができれば、任天堂の新しい大きな柱になるだろう。
クラウドゲームの影響は?
鳴り物入りではじまったGoogleのクラウドゲーム「Stadia」、Appleの「Apple Arcade」は日本ではあまり話題になっていない(Stadiaは国内ではスタートしていない)。むしろ、任天堂のモバイルゲーム「マリカートツアー」が人気を博している。
Switchの好調さをみても、世界市場でも既存ゲームからクラウドゲームへ一気に移行する兆候はまだ見られない。
今後、任天堂はクラウドゲームの動向を注視しながら、Switchのゲームと並行してモバイルゲームを投入していくことになるだろう。
任天堂の課題は?
好調な任天堂の課題はなんだろう。
今回の決算発表で任天堂が触れなかったのは、eスポーツの取り組みだ。
子供向けイメージが強い任天堂ゲームと合わないと考えているのか、賞金額が高い大会が多いeスポーツに任天堂は積極的に関与していない。
将来eスポーツが一般のスポーツのように普及する可能性もあるので、任天堂としてもなにか手を打ちたいところだ。
今年末にはPS5が発売される予定だ。PS4で、PSシリーズはSwitchと棲み分けができてきているので、大きな影響はないかもしれない。
ただ、任天堂は任天堂がゲームを開発し続けないとソフト日照りが起きる。任天堂の新作ゲームが途切れたら、風向きが一気に変わる可能性もある。
任天堂は自社のゲーム開発を継続的に進めながら、IP資産活用の場を広げていくのが当面の戦略となるに違いない。