決算も酷かったけど資料も酷い
今季の楽天の決算は、最終損益が3728億円と過去最大の赤字だった。
決算も酷かったけど、会見で使われたスライド資料もかなり酷い。仕事でスライドを作っている人もいると思うので、「こういうスライドを作らない」ために反面教師として楽天のスライドを見ていきたいと思います。
悪い時に言い訳をする
人は悪いことを説明するときに言い訳をしたくなる。よくない部分を隠したくなる。悪いものを悪いように見せるのではなく、「こういう良いところもあるよ」と言いがちだ。
決算の場合、数字は変えられない。損失は損失でしかなく、悪い数字はやっぱり悪い。それでも良い兆候を見せるために、グラフなどの見せ方で調整、悪い言い方をすれば誤魔化したくなる。
悪い数字を隠す
最初のページからまずい。これは「2022年 主要経営指標(国内)」だ。なるほど、これが重要視している指標なんだとわかる。でも、ここには企業が普通に追い求める売上や利益がない。
楽天は長期的視野に立って経営しているので、売上や利益に一喜一憂しないのかと思ったが、前期Q3の決算で説明された「主要KPI」では売上も利益も載っていた。
「主要経営指標」と主要KPIは違うと楽天に言われそうだけど、KPIなら同じ指標をずっと追っていかないとダメじゃないか。ちなみに、「補足資料」にはこの主要KPIがある。今回はあまりに数字がひどいのでメインのスライドから外したと疑ってしまう。
今期のスライドでは悪い数字を隠して、良い数字だけを強調しているとしか思えない。
比較する期間がおかしい
通販やフィンテックは好調なので、スライドも雄弁だ。
今回の決算で問題なのは、巨額な赤字を計上したモバイル部門だ。
どうやって赤字を解消していくかについて多くのスライドを多く使っている。
その中の一枚が、これ。既存企業と比較して設備投資を大幅に削減していることを表したスライドだ。パッと見ると「他社比で80%削減できるんだ」と取れる。
ところが、この比較は、CAPEX(設備投資)なわけで、今後削減できるのではなく、この削減額はすでに今期の決算にも反映されているはずだ。つまり80%削減の恩恵を受けているのに、この大幅赤字決算になったわけだ。
このスライドが悪いもう一つの箇所は、小さく書かれたCAPEXの期間だ。小さい文字で「2008年4月から2022年12月」とある。2008年というと楽天モバイルが登場する前の話だ。その頃から設備投資した額を積み重ねれば楽天モバイルより他者がコスト高になるのは当たり前の話だ。
CAPEXだから、過去を積み重ねて比較しても問題ないと思いがちだけど、10年前であれば機器も古く高価だから、新しい機器しか購入していない楽天と比べてもあまり意味がない。
比較がおかしい
こちらは楽天モバイルが安いということを説明しているスライド。
パッと見てえらく安いように見えるが、「他キャリア」にはahamoなどの格安プランは含まれていない。また、他者を割高に見せるために「通話料かけ放題オプション」を含ませている。
確かに楽天モバイルは、Rakuten Linkを使えば無料だが、Rakuten Linkは通常の電話アプリでは発信できないし、通常の4G通話より音も悪い。使い勝手や通話品質を考慮したら、公平な比較とはとても思えない。
右のグラフは「他キャリアのサブブランド」との比較。サブブランドはUQ Mobileなどを示していると思われるが、これらのブランドは無制限ではないので、使用容量が増えれば、金額が上昇し続けるのは当たり前の話だ。むしろ、問題なのは20GBまでは楽天モバイルの方が割高なことだろう。このグラフでわかるのは、「無制限だったら楽天モバイルの方が安い」ということだけだ。
これは比較の対象がおかしい例だ。
おかしな要素を含める
こちらはARPUのスライド。ARPUは「ユーザー毎の売上」で、携帯電話事業者がもっとも重要視する指標だ。
グラフと数字だけを見ると、上昇しているように見えるが、このARPUには「エコシステムARPUアップリフト」というのが含まれている。これは楽天モバイルの契約者が楽天の他のサービスを多く使って貢献した金額らしいのだけど、どうやって計算したのかよくわからない。ARPUという業界標準の指標に、おかしな数字を含めるのがそもそもおかしい。
どうしてこんなことをしているかというと、普通のARPUが下がっているからだ。1GB未満無料プランがなくなり、ARPUは9月から上昇したが、直近の12月は下がって見える。
ARPUが全く伸びないのを隠すために、このアップリフトというよくわからない要素を含めたグラフを用いているのだ。
逆に、おかしな数字が出てきたら、都合が悪いことを隠していると勘ぐった方が良い。
グラフの起点がおかしい
一番問題なスライドがこれだろう。契約回線数が伸びていることを表している。1GB無料ユーザーがいなくなった11月から急速にユーザー数が増えているように見える。「前年同期比+294%」という数字も目立つ。
でも、このグラフ、0が起点ではない。数字を見ると、「4,452」から「4,518」に伸びただけで、増加率はわずか1.15%だ。グラフから受ける印象と実際の数字が全然違う。
「前年同期比」にもからくりがある。この数字は楽天モバイルと契約した回線数の推移ではなく、課金ユーザーに限定した数字なのだ。
1年前は、1GB未満無料プランがあったし、1年間無料期間内のユーザーも多かった。その数字と比較して増えたと言われても、「そうでしょうね」としかいえない。一番契約者数が多かったのが2022年3月の約550万件だった。1GB無料プランをやめたことで、100万人が契約をやめたことになる。
さらに良くないのは、直近の数字が「2023年1月」ということ。この決算は12月までだから、1月は本来関係がない。現に、1月を含めた数字を使っているスライドは他にない。
12月の数字より1月の数字の方が見栄えが良いから使ったのだろうけど、誠実な態度とは思えない。
言い訳したくなるのはわかるけど
人は悪いことを説明したくないし、「常にポジティブに説明」はプレゼンの極意としてよく言われることだ。だけど、決算という場で、不誠実とも取られるスライドを使うのは逆効果に思えるけど、どうなんでしょう。