2本で9980円のニンテンドーカタログチケット
任天堂が「2本でお得 ニンテンドーカタログチケット」(これが正式商品名。以下、カタログチケット)を発売開始した。
購入から1年間、任天堂ソフト(ダウンロード版)2本と引き換えることができる。多くの任天堂ソフトの定価は5,000円以上なので、お得感はある。たとえば「ファイアーエムブレム風化雪月」と「ゼルダの伝説ブレス オブ ザ ワイルド」を合わせると15,076円なので、5,096円お得になる。
どうして任天堂は売上げが減りそうなこのチケットを販売したのか考えてみます。
ダウンロード販売に誘導したい任天堂
今回のチケットのポイントは、2つ。
- ダウンロード版のみ
- 任天堂ソフトのみ
ダウンロード販売に限定したチケットを販売したのは、任天堂がパッケージ版よりダウンロード版に誘導したいからだろう。
製造費と配送費が掛からないダウンロード販売のほうが任天堂にとっては嬉しい(小売り店にとってはたまったものではないが)。ダウンロードで販売されたソフトは中古で流通しないので新品の売上げにも貢献する。
ソフトを入れ替えるのが面倒な筆者はなるべくダウンロード版を購入したいが、Amazonだとダウンロード版の方がパッケージ版より高い(下はゼルダの伝説。2019/05/16調べ)
パッケージで買えば中古で売ることができる。発売から2年以上経過しても、「ゼルダの伝説」は4,000円で売れる。遊んだ後に4,000円で売れるなら、ダウンロード版との差額は4,326円になる。利便性が高いダウンロード版を選びたくても、これだけ実質支払額に差があるとダウンロード版を選びづらい。
こういった事情もあり進まないダウンロード版への移行を促すために、任天堂は今回のカタログチケットを販売したのだろう。ゲームソフト1本ならただの値下げだが、チケットを2枚セットにすれば、売上げを維持できると判断したに違いない。いわゆる抱き合わせ商法だが、定評がある任天堂ソフトなので、ユーザーにとっては悪い気がしない。
ダウンロード販売に誘導するメリットは他にもある。ダウンロード版だと中古店で売れないので、ひとつのゲームで長く遊ぶようになる。中古で売ることを考えると価格が下落しないうちに売ろうとするので早くクリアして、早く売りたくなる。
ダウンロード版ならひとつのゲームでじっくり遊ぼうとユーザーは考え、最近増えてきた追加コンテンツの販売もしやすい。
もうひとつダウンロード版が主流になれば購買動向を任天堂が把握することができる。どういうユーザーがどのゲームを買って遊んでいるかわかれば、効果的なCMを打つことができる。
ふっきった任天堂
任天堂ハードというと、任天堂ソフトしか売れないのが長年の課題だった。一世を風靡したWiiも定番の任天堂ソフトの新作がでなくなると急速に失速した。
その反省を活かしてSwitchではインティーズソフトの販売を強化するなど任天堂一辺倒の市場を変えようと対策をしてきた。
ところが、Switchでも任天堂ソフトが圧倒的に強い。過去の売上げトップ10の中で任天堂以外のソフトは「マインクラフト」のみだ。しかもマインクラフトの価格は他のソフトの半額程度なので、総売上額では任天堂が圧倒的だ(トップ20でも、任天堂以外のソフトは4作しかない)。
引用:ゲーム売上ランキング速報
今回のカタログチケットは任天堂ソフトのみが対象なので、さらに任天堂ソフトが有利になる。どうせ自社ソフトしか売れないなら、自社ソフト販売を切り札にしてより多くのユーザーを確保する考えなのだろう。
ダウンロード販売は小売店の業績に大きなダメージを与える。長い間持ちつ持たれつでやってきた任天堂と小売店だったが、ここにきて任天堂は自社の利益に軸足を移したことになる。
GoogleとAppleへの対抗策か
カタログチケットは任天堂の経営を強化し、ユーザーをダウンロード販売で囲い込むことになるだろう。
任天堂には、先日Googleが発表したゲームストリーミングサービス「Stadia」、Appleが開始予定の定額ゲームサービスに対抗する意図があると思われる。
GoogleとAppleが目指すゲームサービスは、オンラインのみだ。どこでもいつでも遊べるオンラインゲームと、パッケージ版では利便性が違いすぎる。今までは高品質なゲームと使いやすいハードウェアでスマホゲームを圧倒してきた任天堂だが、GoogleとAppleが本格的に参入してくると、従来のパッケージ版では対抗できないと判断したに違いない。
カタログチケットは任天堂の究極の切り札である自社ソフトを有効に使って、GoogleとAppleのサービス開始前にユーザーを囲い込む判断をした。
秋にかけてゲーム業界は、大きく変動する可能性がある。