1円の壁
「1円の壁」という言葉をご存知だろうか。0円つまり無料では人気だったサービスが、お金を取り始めた途端に人気が全くなくなる現象を指す。たとえ1円でもお金を払うのを嫌がる心理、お金を払う手段を登録する手間を嫌がる心理が、1円の支払いを拒否させる。
ネットでは無料のサービスがたくさんあるので、お金をとった時点で価格競争力を失ってしまう。お金を払っても、手間をかけても良いと思えるコンテンツ・サービスではないと1円の壁を打ち破れない。
この1円の壁がIT業界を進化させてきたと思う。その理由をご紹介します。
広告モデルを継承したWebサービス
IT以前で、サービスを0円で提供した代表格は、民放テレビだ。民放テレビはテレビCMを流すことでスポンサーから広告料金を得るので、視聴者はお金を払わらなくても番組を視聴できる。
Webサービスは基本無料でスタートした。だが、インターネットに接続するユーザー数が増えてサーバーへの負荷が高まり、サーバやストレージなどのインフラコストが増大してくると、サービスを無料では提供できなくなってきた。そこで導入されたのがテレビと同様の広告モデルだ。Webページに広告を貼ることで管理費と利益を得ることができるようになった。
スマホの時代に移り、広告モデルはゲームやアプリにまで浸透してきた。広告モデルのおかげで、ユーザーは無料で情報を取得でき、ゲームで遊べるようになった。
1円の壁を破るサブスクモデル
ITサービスはWebやゲームに止まらず、クラウドが隆盛になると音楽や映画もネットで提供されるようになった。保存するデータも多くインフラコストも膨大で著作権料も必要になる音楽・動画配信事業は広告だけでは提供できない。そこで導入されたのがサブスクリプションだ。
サブスクリプションはユーザーがお金を払うことになる。これでは1円の壁を突破できないはずだが、Webページとは状況が異なり、音楽と映画は元から有料だ。テレビの映画番組以外で映画を無料で(合法で)鑑賞する方法はない。だから、映画の動画配信にお金を払うことにユーザーは慣れていた。
さらにサブスクという形態が「お金を払っている」感覚を失わせる。映画を観るたびに、お金を払うかどうかの選択を求められないので、お金を払っている感覚は希薄だ。銀行口座を確認すると、料金は毎月払っているけど、使っていないサービスを見つけることがあるだろう。
サブスクの場合、翌月の月額料金を払う時には、すでにサービスを体験してしまってので、料金をつい払ってしまう(実際には支払う料金は翌月のサービスのものだが)。
サブスクの先にあるもの
さまざまな先進的なサービスを提供しているGoogleとAmazonが利益を得るための方法は広告モデルとサブスクモデルが主になっている。
今後もこの2つのモデルが継続するのか、それとも利益をもたらす新しいモデルが登場するのか。なんとなくAppleあたりが斬新なモデルを構築する気もする。Googleは本業である広告モデルを捨てられないだろうし、AmazonはAmazon Primeという強力なサブスクモデルを構築している。
Appleのサービスはサブスクモデルを採用しているが、Amazonほどは成功していない。個人情報を売買する行為だと広告モデルを批判している。このままAmazonの後塵を拝したままではなく、Appleは何か新しいモデルを模索しようとするかもしれない。